バスケットボールにおける身体負荷モニタリングの最前線——Sporta Japan主催セミナーレポート
- Douglas Bewernick
- 12 分前
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名古屋ダイヤモンドドルフィンズ S&Cコーチ・西川氏が語る、KINEXONデータの現場活用と今後の展望
はじめに
スポヲタ株式会社は、スポーツパフォーマンス領域における知識共有と実践向上を目的として、定期的にパフォーマンスカンファレンス・セミナーを開催しています。本セミナーでは、名古屋ダイヤモンドドルフィンズのストレングス&コンディショニング(以下、S&C)コーチを務める西川氏が登壇し、KINEXONを活用した負荷モニタリングの実践と、Bリーグ・プレミア移行に伴うフォーマット変更を見据えた今後のアプローチについて詳細に解説していただきました。
経歴

西川氏は2017年に東海大学へ入学し、大学・大学院の6年間にわたり男子バスケットボール部のS&Cに携わりました。在学中には
体育学部・競技スポーツ学科の小山先生をはじめ多くの方にお世話になったと述べており、サンロッカーズ渋谷で1シーズンのインターンシップも経験しています。大学院修了後はアルティーリ千葉にアシスタントトレーナーとして入団し、約1.5シーズンを経た後、名古屋ダイヤモンドドルフィンズへ移籍。現在は同チームで2シーズン目を迎えており、2026-2027シーズンからは3年目を迎えます。
モニタリングについての考え方・目的
西川氏のセッションはまず、「なぜモニタリングをするのか」という根本的な問いかけから始まりました。

データ収集の手段(How)や対象(What)を先に決めてしまいがちですが、中心にある「なぜモニタリングをするのか(Why)」を確立しない限り、何を使うべきかは決まってこないと西川氏は指摘します。その上で、モニタリングの最終目的を「試合に勝つこと」と明確に位置づけ、そのための手段として「傷害予防」と「パフォーマンスの維持・向上」の2軸を設定しています。
Bリーグの年間スケジュールは約7ヶ月で60試合にのぼり、週2〜3試合かつ移動を伴う2連戦も多くあります。こうした過密日程においては、選手の稼働率を高く保つことがチーム成功の鍵になります。稼働率と勝利の関係はサッカーやラグビーなど他競技でも広く言われており、ファイナルに進出したチームは稼働率が高かったのではないかと西川氏は述べています。また、試合に出る選手と出ない選手の間でシーズンを通じて負荷量に大きな差が生じること、3回試合がある週には練習がほとんどできないこと、年間3回のバイウィーク(オールスター・FIBAブレイク2回)では選手ごとに必要なことが異なることなど、Bリーグ特有のスケジュール事情を踏まえた負荷マネジメントの重要性を強調しました。

モニタリングのフレームワークとしては、トレーニングストレス(外的負荷・内的負荷)を定量化し、それに対する身体応答(神経筋パフォーマンス)を評価するサイクルを基本としています。外的負荷にはKINEXONによる累計加速度負荷(AAL)や高強度加速度回数(エグザーション)、内的負荷にはセッションRPEを使用。身体応答の評価にはフォースプレートを用いたジャンプテスト(CMJなど)を定期的に実施し、入力としての負荷と出力としての神経筋パフォーマンスの変化に対応させています。なお血液検査などのバイオマーカーも手段としてはあるものの、現場レベルでは難しいため、多くの場合は外的負荷の定量化とジャンプテストによる神経筋機能の評価の組み合わせが主流だと述べています。

負荷の変動分析には、ACWR(急性・慢性負荷比率)とZスコアの2つを活用しています。ACWRは国際オリンピック委員会(IOC)が推奨している指標ですが、因果関係が示されていない点や統計的な問題、研究間で結果が一貫しない点も指摘されており、西川氏は障害を直接予測するツールとしてではなく、現在の負荷が過去の蓄積に対してどの程度の割合にあるかをモニタリングするものとして位置づけています。
一方Zスコアは、個人の過去のローリング平均に対して現在の値がどの程度乖離しているかを標準偏差で示すもので、ACWRが比率であるのに対しZスコアは個人の通常範囲からの乖離量を示す点で異なります。どちらが正解ということではなく、目的に応じて使い分けることが重要です。
また、負荷と傷害リスクの関係についてのモデルも紹介されました。慢性的な負荷の蓄積は、適切なトレーニング適応を通じて選手のリスクプロファイルを改善し、長期的に傷害リスクを下げる効果があります。一方で急激な負荷スパイクは疲労を急増させ、修正可能な因子に悪影響を与えることでリスクを高めます。出場時間の多い選手と少ない選手の差を埋めながら、急激なスパイクに耐えられる身体をプレシーズン段階から作っておくことが非常に重要だと述べています。
大学時代の研究と学び—バスケの動作特性
西川氏がKINEXONと初めて出会ったのは東海大学の3〜4年生の頃で、当時は変数(指標)の多さに戸惑ったといいます。そこでまず取り組んだのが、競技の動きそのものを理解することでした。参照したのがアダムペトウェイ氏らによるゲームデマンド研究です。

エリートとサブエリートの違い、スプリントや高加速度動作の分布を把握したことがKINEXONデータを現場で読み解くための基盤となり、さらにその理解を深めたのが東海大学の小山先生らの研究でした。バスケットボールの試合中に最も加速度が高くなる動作を具体的に明らかにしたことで、KINEXONのどの指標が現場で意味を持つかをより精緻に捉えられるようになったと述べています。
小山先生らの研究によれば、試合中に特に加速度が高くなる動作は「ストップ&ゴー(方向転換・原則動作)」「着地」「コンタクト」であり、これらはいずれも試合の局面で繰り返し発生します。単純な走行距離では捉えきれないこうした高強度動作の蓄積を定量化することが、KINEXON活用の核心だといえます。さらに、8G以上の高強度加速度動作の回数が増えるほど、筋損傷マーカーであるクレアチンキナーゼ(CK)の値が上昇するという知見も示されており、こうした加速度の高い動きの回数を継続的にモニタリングすることが、筋への機械的ストレスを把握する上で重要だと述べています。
カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)のタイムベースの指標との関連分析では、セッションRPEとの相関は低い一方、KINEXONのエグザーションやAALとの関連が統計的に確認されており、外的負荷の方が神経筋疲労の指標をよりよく予測するという示唆が得られています。AAL(ボリューム全体)だけでなく、高加速度動作がどれだけあったかという内訳を合わせて見ることの重要性も強調されました。「きつかった」という主観的な感覚だけでは捉えきれない疲労を、客観データで補完する必要性を改めて示す結果です。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズでの活用事例—1年目
コーチングスタッフへの説明
名古屋での1年目は、KINEXONがすでに導入済みの環境の中で、いかにデータを現場に根付かせるかが課題でした。まず最初に取り組んだのが、コーチングスタッフに対してKINEXONで何ができて何ができないかを明確にすることです。負荷の量は把握できても動作の質は示せないこと、取得されたデータは100%の正解ではなく判断材料の一つに過ぎないことを、スタッフ間の共通認識として丁寧に共有しました。こうした土台づくりがあってこそ、データを現場の意思決定に活かせると西川氏は述べています。
週次レポートの作成

スタッフへの共通認識が整った上で、週次レポートをAALとエグザーションのみに絞って報告しました。ACWRや前週比の変化を見ながら負荷のトレンドを把握し、コーチや医療スタッフと共有しています。AALはX/Y/Z全軸(左右・前後・上下)の動きを統合的に捉えられる指標であること、さらにライブトラッキングにも対応していることが採用の理由として挙げられました。情報量を絞ることで、コーチングスタッフが迷わず内容を理解できるレポートを目指しました。
ケーススタディ(試合欠場の判断事例)
1年目の具体的な活用事例として、蓄積負荷の高まりがジャンプテストの数値低下と重なった選手への対応が挙げられます。前の週から今週にかけてAALが高くなり、エグザーションも非常に高い値を示した後、翌日のジャンプテストでパフォーマンス指標の低下が確認されました。医療スタッフの評価とも合わせてコーチに状況を報告し、それまでもプレイタイムが長かった選手だったこともあり、試合を一度スキップするという判断につながりました。データを起点にスタッフ間の対話が生まれ、最終的な意思決定を支えた事例です。
ライブトラッキングの活用

練習中はAALのリアルタイムデータを活用し、コーチが事前に設定した「ハード(高強度)・ミディアムハード(中〜高強度)・ミディアム(中強度)・ミディアムライト(低〜中強度)・ライト(低強度)」5段階の強度評価と連動させてフィードバックを行いました。設定した負荷目標に対してチームや個人がどの程度達しているかをリアルタイムで確認することで、ドリルのローテーション追加や練習時間の調整などに役立てています。数値が目標に達したからといって即座に練習を止めるものではなく、あくまで判断材料の一つとして活用していた点が重要です。
ドリルインデックスの作成
バイウィークや練習設計において重要な役割を果たしたのが、ドリルごとのAAL/分(1分あたりの累計加速度負荷)を算出したドリルインデックスです。アルティーリ千葉時代はFIBAブレイクがなく試合が続いていたのに対し、名古屋(B1リーグ)ではバイウィークがあるため、出場時間の少ない選手が急に高強度練習に晒されやすいタイミングが生まれます。試合に近い強度のドリルがどれかを数値で把握することで、シーズン中からそうした刺激を継続的に与えられるよう練習メニューを設計しました。スクリメージの各クォーターの強度と練習ドリルの強度を照らし合わせることで、コーチがドリルを配置する際の情報としても活用しています。
1年目の課題
1年目を振り返り、西川氏は主に2点の課題を挙げています。
①プレシーズンにおける慢性負荷の蓄積が十分に計画的でなかったこと
②週次レポートでは選手の状態変化への対応が遅れる場面があり、デイリー報告への移行が必要と感じたこと
また、外国籍選手など合流時期がバラバラになるケースでは、8月から参加している選手と9月から合流した選手とで負荷耐性に大きな差が生まれることも課題として残りました。こうした経験が、2年目の取り組みをより精緻なものにしていきます。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズでの活用事例—2年目
慢性負荷の重要性と今シーズンの取り組み
2年目で最も重視したのが、慢性負荷の計画的な蓄積です。シーズン中の急激な負荷スパイクに耐えられる身体をあらかじめ作っておくこと、いわばワーストケースシナリオへの備えが最重要課題でした。出場機会の少ない選手がバイウィークや連戦中に突然高強度の動きを求められる場面は必ず訪れます。その時に「耐えられる身体」を日頃から作っておくことが、稼働率の維持と怪我予防に直結すると西川氏は強調しています。
ただし、ただボリューム(量)を積み上げるだけでは不十分です。西川氏が特に重視したのは、試合と似たような強度を日頃の練習の中で再現することでした。練習強度が試合とかけ離れていると、いざ試合になった時に身体が対応できず、怪我のリスクが高まります。慢性負荷の蓄積と試合同等の強度体験、この2つをセットで考えることが、本当の意味でのシーズン準備だと述べています。
こうした考えのもと、プレシーズンでは2部練習を多く組み込み、午前はバスケにおけるシステム確認(軽め)・午後は高強度練習と分ける設計を取りました。前シーズンと比較すると、ボリューム自体は若干増加しつつも、最大の変化点は「強度の質」への意識です。単にAALの総量を積み上げるのではなく、試合に近い高強度の動きをどれだけ短時間に凝縮して経験させられるかを重視しました。アシスタントコーチやプレイヤーデベロップメントコーチとも連携し、担当選手の負荷状況を共有しながらワークアウト内容を柔軟に調整しています。シーズン中も、プレイタイムの短い選手がバイウィーク時に急激な高負荷に晒されて怪我をしないよう、日頃からワークアウトやウェイトリフトを継続することをコーチ陣にも協力してもらいながら取り組みました。
メトリクスの分類
今シーズンはもう一つの大きな改善に着手しました。

1年目の60試合分のKINEXONデータを用いたクラスタリング分析です。50種類以上のメトリクスの中には重複する情報を示しているものもあり、これを5つのクラスター(①ボリューム系、②相対強度系、③ピーク強度系、④ジャンプボリューム系、⑤ジャンプ強度系)に集約しました。
例えば走行距離とAALはどちらもボリューム系として高い相関を持つことが確認されており、両者を同時に報告することの冗長性を整理できました。この分析の目的は精度の高い統計モデルを作ることではなく、「何が同じことを示していて、何が異なる情報を持っているか」を現場レベルで理解し、レポートへの落とし込みをシンプルにすることにありました。
フィードバック方法—1ページで完結するデイリーレポート
報告ツールは週次からデイリーレポートに移行しました。コンセプトは「1ページで完結」です。

上段にはチーム全体のAALボリューム・エグザーション・RPE・コーチの設定強度に対する達成度を配置。下段には個人ごとの練習参加量・推奨アクション(リカバリー優先 / ワークアウト追加 / 通常対応)を一覧で表示しています。
コーチングスタッフがいつでも参照できるスプレッドシートも並行して運用し、医療スタッフのステータス(「怪我の影響でプレーができない場合→アウト」など)をリアルタイムで更新・共有する仕組みを構築しました。アシスタントコーチやプレイヤーデベロップメントコーチが確認すれば、担当選手に今日何をどれだけさせればよいかがすぐに分かる設計を意識しています。
1週間のスケジュール設計

週2試合(土日)の週では、月曜に全体休養、火曜は「ワークアウト+リフト」「リフトのみ」「リカバリーのみ」から選択する個別対応日とし、出場時間の長い選手には実質2日間の休養を確保しました。水曜日は試合同等強度の「仮想ゲームデー」として位置づけ、出場機会の少ない選手にとって最も重要な高強度刺激の機会としています。スクリメージの往復回数などをコントロールしながら強度を高く設定し、木・金で負荷を落として試合に臨む流れを設計しました。
週3試合の週はほぼ練習が組めないため、練習日や試合前のウォームアップ時間に高強度の個別メニューを組み込み、出場機会の少ない選手への最低限の刺激を継続することを優先しました。
出場時間による個別アプローチの基準化

出場時間に応じた個別対応の基準をあらかじめ設定し、選手・コーチ・パフォーマンススタッフ全員が試合直後から「次に何をすべきか」を共有できる体制を整えました。もちろん全員にそのまま当てはめるわけではなく、医療スタッフの評価や各選手の慢性負荷の状況を加味した上で最終判断を行います。この基準化によって、個別対応の準備をスタッフ全員が事前に進められるようになりました。
試合結果による負荷の違い
今シーズンの分析で着目したのが、勝敗とデータの関係です。敗戦試合のデータを分析したところ、負けた試合ではAALのボリュームが高い一方、エグザーション(強度)には勝敗間で大きな差が見られませんでした。強度は変わらずボリュームだけが高い状態は、深い疲労が蓄積している可能性を示唆します。特に2連戦のゲーム2での敗戦傾向が顕著であり、ゲーム1とゲーム2で何が違うのかを分析する中で見えてきたデータでした。ゲーム1後のリカバリー戦略と翌日の練習量の設定が今後の検討課題だと述べています。
今後の展望—Bリーグプレミアに向けて
2026-27シーズンからのBリーグプレミア移行により、スケジュールは大きく変化します。従来の「週末2連戦」モデルから試合が分散した非線形なスケジュールへの移行が予想されており、チーム全体の管理よりも個人ベースのアプローチがより重要になると西川氏は見ています。スケジュールが変わることで過去のデータをそのまま参照することが難しくなるため、翌シーズンは「半分探り探り」の部分もあると述べました。
名古屋の場合、シーズン序盤にホームアリーナであるIGアリーナがアジア競技大会で使用されるため、長期のアウェイ連戦が見込まれています。こうした状況ではアウェイ先でのウェイトルーム確保など環境整備を働きかけつつ、マイクロドージング(毎日少量ずつ継続的に負荷を積み上げる)的なアプローチが中心になっていくと述べています。毎日トラッキングデバイスをつけてワークアウトを定量化し、どこでどれだけ実施するかをその都度判断していく形になると見ています。
また、スケジュールを事前に分析して「練習が組みにくい週」を予測し、その前後に意図的に負荷を積んでおく計画的なアプローチが必要になります。アンダートレーニングになりすぎず、かつオーバーにもなりすぎないバランスを13人前後のロスター全員に対して維持することが、来シーズンの大きな課題です。

最終的には、負荷を計測し→選手の状態を把握し→反応を見て→どう判断するか
というサイクルの精度を上げていくことが最も重要であり、どのような指標を使うかよりも、それをどう意思決定に落とし込むかが核心だと西川氏は述べています。
まとめ
今回のセミナーを通じて、KINEXONを用いた負荷モニタリングの実践には、
①Whyを起点とした明確な目的設定
②メトリクスの整理と現場スタッフへのシンプルな情報共有
③個人ベースの継続的トラッキングと事前の負荷設計
という3つの柱が不可欠であることが示されました。
データが意思決定をそのまましてくれるわけではなく、指標をどう解釈してどう判断に落とし込むか、そのサイクルの精度を上げていくことこそが、S&Cコーチとしての役割であるという姿勢が、セミナー全体を通じて一貫して伝わってきました。スポヲタ株式会社では今後もこうした実践知を共有する場を継続的に提供してまいります。
※本記事は、スポヲタ株式会社主催パフォーマンスセミナーにおける西川氏の講演内容をもとに構成した記事です。



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