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バレーボール:データとパフォーマンスの強化

  • Douglas Bewernick
  • 3 日前
  • 読了時間: 11分

本記事では、イタリアの理学療法士であり、オリンピックにも3度帯同した経験を持つセバスティアーノ・センチーニ氏のデータを使ったバレーボール競技における活用方法の事例を紹介します。

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セバスティアーノ・センチーニ氏は理学療法士として豊富な経験を持ち、イタリア男子バレーボールナショナルチームに帯同

してリオ、東京、パリの3度のオリンピックに参加したほか、イタリアのプロバスケットボールチーム「モンテパスキ・シエナ」でユーロリーグの経験も積んでいます。現在は女子バレーボールチーム「サヴィーノ・デル・ベーネ・スカンディッチ」で5シーズン目を迎え、選手の健康管理や怪我からの復帰にデータを活用したアプローチを実践しています。



レーボールの過酷なスケジュール管

バレーボールのシーズンスケジュールは、レギュラーシーズンが10月に始まり、4月下旬から5月上旬に終了します。さらに、イタリア国内選手権とチャンピオンズリーグの両方に参戦しており、週に3試合をこなすこともあります(昨シーズン42試合)。

一方で、シーズン終了後の過ごし方には大きな違いがあります。

  • ナショナルチームに選出された選手は、シーズン終了後もネーションズリーグや大陸選手権などに参加し、オフシーズンもほぼ休みなく競技が続きます。その結果、レギュラーシーズンを含め年間で70〜80試合に及びます。

  • ナショナルチームに選ばれない選手は、シーズン終了後に3〜4か月の長いオフシーズンを確保でき、休養やコンディション調整に充てることができます。しかし、選手のオフシーズン中のコンディションの確認がむずかしいという課題もあります。

ナショナルチーム活動の有無によって、選手間で年間の活動量に大きな差が生まれているのが現状です。

こうした状況を踏まえ、セバスティアーノ氏が課題として挙げているのが選手の負荷管理です。ナショナルチーム活動中はトレーニング負荷の管理方法が異なり、クラブでは毎シーズン選手の入れ替わりもあるため、常に選手と密に連絡を取り続けることは容易ではありません。さらに、怪我はナショナルチーム活動中やオフシーズンの休暇中にも発生する可能性があり、すべての選手に対して個別の計画を立てることは非常に難しいと述べています。


復戦略とデータ連

そんな過酷なスケジュールの中、クラブとしては選手のコンディション維持を最優先に考えて休息を調整しています。 レギュラーシーズン終了とナショナルチーム活動開始の間、ナショナルチームのトーナメント間、そしてナショナルチーム活動終了とクラブ活動再開の間には、最低でも1週間の休息期間を設けるようにしています。 この休息は、肉体的な回復だけでなく精神的な回復のためにも欠かせない時間であり、「トップアスリートとしてあり続けるために極めて重要な要素」だとセバスティアーノ氏は指摘しています。

シーズンオフや代表活動期といった、クラブにとって選手の状態を把握するのが最も難しい時期は、クラブ・ナショナルチーム・専門家の間で情報共有を行っています。

具体的には、

  • 専門家同士の連携 クラブの理学療法士はナショナルチームの理学療法士と、ドクター同士、S&Cコーチ同士が密に連絡を取り合い、アスリートの健康状態やトレーニング負荷の情報を交換しています。

  • 選手との対話 オフシーズン中でもオンラインまたは対面で選手とミーティングを行い、身体状態やメンタルの状況を確認します。

これらの取り組みにより、クラブは年間を通じて一貫したコンディション管理を実現し、負荷の急激な変化や怪我のリスクを未然に防ぐ体制を整えています。


KINEXONを用いたデータ活用と個別化アプローチ

クラブではシーズン開始時に、選手から「履歴用紙」を提出してもらい、既往歴、トレーニング内容、過去の負荷状況などの情報を収集しています。 KINEXON導入後は、前所属チームでKINEXONを使用していた選手の場合、そのチームから提供されるトレーニングレポートや、選手自身が把握している負荷データをもとに、S&Cコーチと理学療法士が新シーズンの負荷設定を行い、その内容を履歴用紙にも反映しています。一方で、過去のデータを持たない新加入選手の場合は、いきなり数値テストを行うのではなく、まず15〜20日間の観察期間を設けています。 この期間中に、選手の動きや身体的特徴を観察し、既存のデータベースに蓄積された他選手との比較を通じて初期的な指標を設定します。このアプローチにより、選手一人ひとりの背景を踏まえた個別に最適化された負荷の初期設定が可能となり、パフォーマンスの最大化だけでなく、健康維持の観点からも安全で無理のない立ち上げが実現しています。


手とのコミュニケーション

こうした取り組みをつくりあげるうえで、選手が「なぜこのデータを取るのか」を理解し、前向きに受け入れられるように、選手とのコミュニケーションを重視しています。セバスティアーノ氏は、データは「選手を守り、キャリアを延ばすためのものであり、決して監視や評価のためのものではない」とも強調しています。


  1. データのオープン化と個別対話選手が積極的にデータを活用できる環境を作るため、クラブでは選手自身がいつでも自分の状態について質問できるよう、データをオープンに公開し環境を整えています。さらに、全体説明だけでなく、選手一人ひとりとの個別の対話を重視しています。この際、専門用語ではなくシンプルで明確な言葉を用いることで、選手に安心感と理解を与えています

  2. データを日常化する継続的コミュニケーションシーズンを通じて、データを日常の一部として自然に定着させるため、練習や試合後にジャンプ回数、ジャンプ高、累積加速度負荷(AAL)などの指標をもとに、選手と日常的な会話を行い、ルーティン化しています。KINEXONのソフトウェアを用い、モニター上で数値を見せながら説明することで、選手は直感的に自身の状態を理解できます。

  3. 選手主体のデータアクセスとフィードバック基本的には、選手のリクエストベースで行われることが多く、 選手が求めるデータを尋ねた際に、理学療法士が即座にデータを提示する。選手が自身の状態に関心を持ったときにすぐアクセスできる環境が整備されており、必要に応じてオンラインでの相談にも対応し、選手がどのタイミングでもフィードバックを得られる体制を維持しています。

※イタリアリーグでは試合中の着用も認められているため、練習と試合の両方のデータを収集・分析できる点も大きな特徴です。


要メトリック

クラブでは、練習および試合の双方で以下の指標を毎回計測し、パフォーマンス負荷の違いを定量的に把握している。

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  • ジャンプ数(Jump Count)

  • ジャンプ高(Jump Height)

  • 活動時間(Active Time)

  • 加減速の累計負荷( AAL):AALの合計値は活動量の指標

AALは単にプレー時間に比例するものではなく、内容の密度やラリーの質が反映されます。 例:短時間で終了した3–0の試合でも、ラリーが長くディフェンスの多い内容であればAALは高くなります。

  • ALL/min:活動の強度の指標セットごとの強度や戦術的特徴をより正確に評価できます。試合の特異性や戦術的傾向を読み解く上でも有効な指標です。 


ベロの負荷に関する新たな知見


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これらの指標をもとにKINEXONで収集したデータを確認したところ、ジャンプをほとんど行わないリベロが、しばしばチーム内で最も高いAALを記録することが明らかになりました。 これは、バレーボールにおける外部負荷が「ジャンプ数」だけでは説明できないことを示しています。リベロは常に低い姿勢(スクワットポジション)を維持し、前後左右へ素早く移動するポジションで、特にディフェンス局面では、減速と加速が頻繁に発生し、身体的ストレスが極めて高くなります。この発見は、リベロの負荷がジャンプ動作に依存せず、多方向移動と瞬間的反応動作に起因することを裏づけるものです。こうした観点から外部トレーニング負荷の重要性を指摘し、関連文献としてレベロ氏の論文「Beyond the Jump」(Sportsell, 2025年1月)を紹介しています。


践:試合週の負荷管理と回復戦略

イタリアのリーグでは、試合と練習の両方のデータを比較できるため、KINEXONのデータを活用して過密スケジュール下でも選手のコンディション管理を行っています。

  • 過密な週(例:週3試合・各2時間半)では、翌日を原則として休養日に設定。 出場機会の少ない選手のみ、軽度の補完練習を実施しています。

  • トレーニング強度の個別調整:年齢・ポジション・直近のAAL値に基づき、ジャンプ系メニューを入れ込むのか、練習時間・練習負荷を個人単位で調整しています。

このように、クラブではAALを中心とした客観的データに基づいた意思決定を行うことで、選手の疲労回復とパフォーマンス維持を両立させています。


ハビリテーション(RTP)質 vs 量

競技復帰(RTP:Return to Play)においても、データは選手が安全に、かつ負傷前のパフォーマンスレベルで競技に復帰できるよう活用されています。

主に確認しているデータは

  • 加減速の累計負荷(AAL): ジャンプを伴わないトレーニング中のAALの確認

  • 心拍数:選手が適切なコンディションにあるかの確認

ジャンプの復帰プロセス

レベルの高いリーグでは、ジャンプ高が5cmでも低下するだけでも致命的となる場合があるため、Kinexonを使ってジャンプの回数だけでなく、ジャンプの質や強度をモニタリングしています。ジャンプ回数を減らしてでもジャンプの高さを維持するなど、質を量より優先する意思決定が行われています。ベースライン(閾値)の設定と復帰判断

RTPプロセスでは、怪我前に確立された選手の個別データ(ベースライン)が、競技復帰の客観的数値として活用されています。

具体的には、

  • ベースラインの確立: 選手Aが負傷前のジャンプの高さが75cm、練習中のジャンプ回数が100回に達していたしていた場合、この数値が復帰判断の基準になります。

  • 設定目標値の達成: リハビリにおいて、ベースラインに到達したことをデータで確認できれば、復帰できる準備ができたと客観的に伝えられます。

  • ジャンプの質と量のバランス: 単なる回数だけでなく、ジャンプの高さや強度の維持が重要視され、データに基づいて量と質のバランスを調整します。


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手との信頼関係構築

  • データのレビュー: 練習終了後に選手と共にデータを確認し、計画通りに進んでいるかどうかを確認しています。

  • 心理的安心: 客観的データにより、自身の復帰進捗が保証されていることを選手が理解することで、自信を持って復帰に臨めます。

さらにセバスティアーノ氏は、怪我の種類によって、確認する指標を変えています。

  • 下肢の怪我(ジャンパーズニーなど): ジャンプが不可欠なスポーツであるため、膝伸筋機構に関わる怪我では、ジャンプの質(高さ)が主要な指標となります。

  • 心血管系や全身疲労: 心血管系や病後回復の場合、累積加速度負荷(AAL)や心拍数をモニタリングし、選手の安全を確保します。

選手の累積的な疲労や活動履歴を把握し、日々の負荷を総合的に評価・調整することで、復帰後のパフォーマンス維持と怪我再発防止に役立てられます。


後期待していること

1. 上肢データの取得セバスティアーノ氏は現行のKINEXONシステムが下肢データ(ジャンプやAAL)の可視化に優れていることを評価しつつも、バレーボールではスパイクやサーブによる肩への負担が大きいため、上肢、とくに肩のデータ計測機能の拡充を望んでいます。

2. データ活用を支える教育とチームの協力体制

データを最大限に活用するためには、テクノロジーを導入するだけでなく、チーム全体がその価値を理解し、協力し合う文化を築くことが重要です。そのためクラブでは、コーチやS&Cコーチを含むスタッフへの教育的アプローチを実施し、データの目的や解釈について共通認識を持てるようにしています。

3. 女性アスリート研究の拡充とデータのカスタマイズ化

バレーボール界において、女性アスリートに関する科学的研究は不足しています。 ジャンプ閾値や累積負荷など、パフォーマンス指標は男女で異なるため、女性アスリート専用のデータ基準を設ける必要があります。

4. 若い世代への教育的データ活用と長期的育成

最後に、ジュニア世代へのテクノロジー活用です。トッププロ選手はスパイクやレシーブなど、それぞれのやり方や好みがあるため、動作の修正が難しい傾向があります。一方、若い選手はテクノロジーを活用することで、正しいフォームを早期に習得しやすく、将来的な怪我予防や競技力向上につながると考えられます。また、思春期の選手は生物学的年齢の差が大きく、負荷のかけ方に個人差が求められます。KINEXONは、発達段階に応じたトレーニング設計を可能にし、過使用障害のリスク軽減にも貢献できます。


とめ

セバスティアーノ氏は、KINEXONを活用して選手一人ひとりの負荷を可視化し、パフォーマンス向上と怪我予防を両立させています。ジャンプや加減速の累計負荷(AAL)を定量的に評価し、練習や試合での強度を個別に調整。選手との対話やオープンなデータ共有を通じて、データを前向きに活用できる環境を整えています。また、上肢データの取得や女性・ジュニア選手向けの研究強化なども視野に入れ、長期的な健康と競技力向上を支えるモデルケースとして注目されます。


ポヲタが提供するテクノロジー

弊社は、日本のスポーツ界にもこの先進的な技術を導入し、選手の怪我予防、パフォーマンス向上をサポートします。「KINEXON」をはじめとするテクノロジーに関心がある方や、コラボレーションを希望される方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


※本記事は、下記を翻訳・加筆修正を行い、提供しております。


引用元で紹介されていた論文

Beyond the Jump: A Scoping Review of External Training Load Metrics in Volleyball (Rebelo et al., 2024, Sports Health


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