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NBAの内幕:テクノロジーとデータがパフォーマンス判断をどう左右するかInside the NBA: how technology and data really drive performance decisions

  • 執筆者の写真: Douglas Bewernick
    Douglas Bewernick
  • 17 分前
  • 読了時間: 14分

登壇者:アダム・バージル氏 / ロサンゼルス・クリッパーズ(NBA)統合パフォーマンス科学部門副社長

Presenter: Adam Virgile / Vice President of Integrated Performance Sciences at LA Clippers (NBA)

訳・要約:ダグラス・ビューワーニック / スポヲタ株式会社

じめに

 本記事では、2026年2月6日に開催されたオーストラリア・カトリック大学(ACU)主催の「ハイパフォーマンス・スポーツ・サマーセミナー」より、ロサンゼル・クリッパーズ(LAC)の統合パフォーマンス科学部門副社長であるアダム・バージル氏のテクノロジー及びデータ活用事例について纏めています。

バージル氏は、データに基づく意思決定において、「データそのものよりも如何に情報(データ)を解釈するかが最も重要」である点を繰り返し強調し、NBAの過密なスケジュールを戦い抜くLACのアプローチ方法と興味深い洞察を本セミナーにて共有しました。

本記事にて纏めた内容が、少しでも日本のハイパフォーマンススポーツで活躍するプラクティショナーや研究者にとって参考となれば幸いです。


ータに基づく意思決定

データを用いて意思決定を行う際には、いくつかのステップに分けて考えることができます。アダム氏は、LACで以下のフォーマットを用いて意思決定のプロセスを構築しています。


①「何を決めたいのか」という意思決定を明確にします 

まず、解決すべき課題や下すべき判断を明確にします。意思決定が定義されていなければ、データ活用の方向性も定まりません。


② 意思決定に必要な情報を選択します 

次に、その意思決定に関係する情報を選び、必要なデータを収集・管理します。


③ データを分析し、結果を整理します 

収集したデータを分析し、関係者と共有できる形に整理します。


④ 分析結果を関係者との対話を通じて解釈します 

コーチ、選手、メディカル、S&Cなど、関係者との対話を通じて数値に意味を与え、文脈の中で解釈を深めます。


⑤ 解釈をもとに、より良い判断へとつなげます 

最終的に、解釈された情報をもとに関係者との対話を通じて意思決定を行い、その結果を振り返りながら次の判断へと活かしていきます。このプロセスは循環型の構造となっています。

なお、同じフォーマットを用いたとしても、必ずしも同じ結果や効果が得られるわけではありません。そのため、自身の考え方やチームの方針に合わせて、最適な意思決定プロセスを構築していくことが重要です。


ータの表側にある文脈を理解する重要性


データ活用において重要なのは、数値や指標といったデータの表側だけを見ることではありません。その背景にある競技状況、選手のコンディション、意図、環境といった文脈(コンテクスト)を正しく理解することが不可欠です。

また、データは個人の判断材料に留まるものではなく、アスリート、コーチ、サポートスタッフ、フロントなど、関わるステークホルダー全員が共通認識を持つためのツールとして活用されるべきです。

そのためには、「何のためのデータなのか」「この数値が何を意味し、何を意味しないのか」を明確にし、全員が同じページに立ったうえで意思決定を行う包括的なアプローチが重要となります。


ータの検討

 競技パフォーマンスの向上にポジティブな影響を与えるためには、どのような情報を収集し、それをどのように活用できるのかを考える必要があります。重要なのは、単にデータを収集すること自体が目的ではないという点です。データ活用を行ううえでは、以下の観点から検討することが求められます。


① 導入コストの検討 

まず、そのデータ収集が費用対効果の観点から本当に価値があるのかを考える必要があります。具体的には、機器やシステムにかかる金銭的コストだけでなく、運用に必要な時間や人的リソースも含めて評価することが重要です。


② データの質の確認

データを継続的に活用していくうえで重要となるのは、プラクティショナーとして、使用するデータの Validity(妥当性) と Reliability(信頼性) を正しく理解し、それを適切に解釈することです。数値が示されているという理由だけで、そのデータを無条件に信用することはできません。データが「何を正しく測っているのか」「一貫して同じ結果が得られるのか」を事前に確認する必要があります。


③データ理解

何よりも大切なのは、データを理解し、解釈するための基礎知識が備わっているかどうかです。どれだけ質の高いデータを収集しても、それを正しく読み取り、意思決定に結びつける力がなければ、データの価値は十分に発揮されません。


このように、競技パフォーマンス向上に貢献するデータとは、コストに見合い、質が担保され、理解・解釈されたうえで活用されるものであると言えます。


密スケジュール


 ここでは、NBAシーズン中に想定される1か月のスケジュール例を通して、移動と試合が選手に与える影響を考えます。

例えば、サンアントニオ・スパーズ(SAS)への遠征では、2つのタイムゾーンを越える移動が発生し、フライト時間も3時間以上に及びます。その上、試合は夜遅い時間帯に行われることが多く、身体的・精神的な負担が大きくなります。

さらに、その後にメンフィスへの移動が続く場合、移動(および時差)と試合が連続し、夜遅くまで試合が続くスケジュールになるケースも少なくありません。

このような状況では、単に試合のパフォーマンスだけでなく、睡眠、回復、時差への適応、コンディショニング管理まで含めて考える必要があります。


合と練習のデータ

 

競技パフォーマンスやコンディション管理を考えるうえで、試合データと練習データは同じ「負荷」でも、意味合いが異なることを理解する必要があります。


◎試合データ

 試合では、Hawkeyeシステム(3Dモーションキャプチャ)を使用し、60fpsで選手の動作を取得し、29関節の詳細な動きを捉えています。これにより、試合中の動作を高精度かつ立体的に把握することが可能です。


◎練習データ

 一方、練習ではKINEXON(LPS) や Polar などのウェアラブルデバイスを用いてデータを収集します。これらは日常的に継続して使用できる点が強みですが、計測原理や環境は試合とは異なります。


◎試合データと練習データの比較における注意点

 試合と練習を比較する際、Total Load(総負荷) については、一定の条件下で比較することが可能です。


しかし、High Intensity Action(加速[Acceleration]、減速[Deceleration]、方向転換[Change of Direction]などを伴う高強度な動作)については、計測システムや環境が異なるため、同一条件での直接比較はできません


アダム氏は特に、バスケットボールのようにコートが小さく、短い距離で加速・減速・方向転換が頻発する競技においては、単なる移動距離やTotal Loadだけでは、実際の身体的負荷を正確に捉えることはできないと述べています。負荷を正しく解釈するうえでは、High Intensity Metrics(高強度動作を表す指標)が非常に重要になります。

そのため、各動作の特性を理解したうえで、どのデータを、どの文脈で使うのかを見極めることが、データを用いた意思決定において重要となります。


荷のモニタリング・捉え方

 負荷モニタリングを行う際、アダム氏は身体的負荷を一つの指標で捉えるのではなく、以下の3つのカテゴリーに分けて整理することが重要だと示しています。

 

① 量(Volume):全体として、どれだけ行ったかを示す指標です。

主に、トレーニングや試合を通じた累積的な負荷を捉えます。

  • 例:加速回数(Accelerations)/ 減速回数(Decelerations)/ 移動距離(Distance)/ 高速走距離(HSR)/ Total Load(総負荷)

量の指標は、負荷の大きさの全体像を把握するうえで有効です。


② 密度(Density):単位時間あたりに、どれだけの負荷がかかっているかを示します。

これは、トレーニングや試合の凝縮具合忙しさを捉える視点です。

  • 例:加速回数 / 分、 減速回数 / 分、 距離 / 分、HSR / 分、Load / 分

同じVolumeであっても、短時間に集中して行われている場合、身体へのストレスは大きくなる可能性があります。


③ 強度(Intensity):動作そのものが、どれだけ激しかったかを示す指標です。

最大値やピークの観点から、身体にかかる瞬間的・局所的な負荷を評価します。

  • 例:最大スピード / 最大加速度 / 最大減速度


特にバスケットボールのような競技では、この強度の要素がパフォーマンスや傷害リスクと深く関係します。

負荷モニタリングにおいて重要なのは、 量・密度・強度のどれか一つだけを見るのではなく、3つを組み合わせて立体的に捉えることです。


ACC / DECの強度と密度

 

この図は、加速(Acceleration)・減速(Deceleration)の強度と密度を可視化したものです。同じACC/DECであっても、どれくらい強い動作かどれくらい集中して発生しているかによって、身体への負荷の意味合いは大きく変わります。


  • 強度(Intensity) 上下の球が最大強度を表し、最大加速は 2.5 m/s²、最大減速は -2.8 m/s² 

  • 密度(Density) 赤丸で囲まれた部分は、短時間にACC/DECが集中して発生している区間を示す


重要なのは、最大強度だけでなく、どれだけ集中して繰り返されているかを見ることです。強度と密度を併せて評価することで、実際の身体的負荷をより正確に捉えることができます。


トリクス(指標)の本質的な捉え方


これらのメトリクスは、「なぜ数値が高い(低い)のか」を、必ず具体的な動作レベルに分解できることを前提としています。

重要なのは、数値そのものを評価することではなく、その背景にあるプレーや動きが何だったのかを理解したうえで解釈することです。

つまり、メトリクスを見るとは、数字を見ることではありません。コート上で何が起きているのかを理解するための手段です。


この視点を持つことで、データは初めて戦術設計やトレーニング、対策立案に活かせるものになります。


◎チーム間比較から見えるデータ


1. チームの戦い方(Where to play)が見える

身体的プロファイルとプレースタイルを重ねて見ることで、

  • どのテンポで試合が進むのか

  • どの局面で負荷が生じやすいのか

  • 自チームが有利になりやすい状況はどこか

といった 「どこで戦うチームなのか」 が浮かび上がります。



2. チーム間のギャップの特定(What gaps exist)

BOSとDENの比較からは、明確な差異が確認できます。

  • DEN:スローペース、落ち着いた展開

  • BOS:ファーストペース、テンポの速い展開

この違いは単なるスタイルの差ではなく、試合中に発生する身体的負荷の質とタイミングの差を生み出します。

3. 相手のスタイルが自チームに与える影響

例えばDENのようなスローペースのチームと対戦すると、

  • 試合全体のテンポが落ちる

  • 自チームのDF時の動きも必然的に遅くなる

つまり、相手のプレースタイルが自チームの身体的要求を変化させることになります。

4. 意思決定への応用

これらの分析を通じて、

  • どのテンポで試合を作るべきか

  • どの局面で主導権を握るべきか

  • 戦術・ローテーション・準備をどう変えるか

といった 実践的な意思決定へとつなげていきます。


◎個別メトリクスから見えるデータ


1. 情報の階層化による役割の可視化

色分けによって、選手の立ち位置が直感的に整理されています。

  • Black:コアプレーヤー(主力)

  • Dark Gray:出場時間が少ないローテーション選手

  • Light Gray:直近でほとんど出場していない選手

  • Green:チーム/試合平均を大きく上回るメトリクス

この視点は、対戦相手分析やマッチアップ設計に直結します。

Luka Garza選手とマッチアップする場合(例):

対戦相手である Luka Garza は、ACC・DEC・HSR などの指標から見て、よく走り、動き続けるタイプの選手であることが分かります。

このような選手に対して、

  • RTP(Return to Play)段階の選手

  • ハムストリングを過去に負傷している選手

をそのままマッチアップさせると、 高強度の反復動作(走る・止まる・方向転換)によって再発リスクが高まると判断できます。


その結果、

  • マッチアップを変更する

  • ヘルプの出し方を調整する

  • 守備スキーム自体を切り替える

といった 戦術的な意思決定が可能になります。


◎情報の簡素化は重要


現場では、コーチ/選手が、必ずしもデータリテラシーが高いとは限りません。従って、全てを説明するのではなく一目で伝わる設計が求められます。

良いデータとは、理解を要求するものではなく、意思決定を助けるものです。


一選手の対戦相手別負荷可視化と戦術的活用


なぜ個人内比較を行うのか

選手ごとの役割や出場時間、プレースタイルは異なるため、単純な選手間比較では文脈を見誤る可能性があります。

一方で個人内比較では、

  • 出場条件が近い

  • 役割が大きく変わらない

という前提が保たれるため、対戦相手や戦術の違いによる影響をより明確に捉えることができます。


この比較を行うことで、

  • どの対戦相手とマッチアップする際に負荷が高くなるのか

  • 特定のチームやマッチアップで、動作特性(加速・減速・HSRなど)がどう変化するのか

  • 戦術や相手のペースが、個人の身体的要求にどの程度影響しているのか

を把握できます。


加えて、個人内比較で過去の数値より低い値が出た場合でも、そのまま「パフォーマンスが低かった」と判断せず、チーム全体の状況と照らして考えることが重要です。もしチーム全体の数値も低ければ、その選手だけが低いわけではないため、単純に「その選手のパフォーマンスが落ちた」と解釈するのは誤解につながります。


ータ解釈の注意点と包括的意思決定の重要性


数値が低い場合でも安易に判断しない現場にいないと、選手がどれだけセッション(トレーニングや試合)に参加していたか分からず、その数値が妥当かどうかも判断できません。


  • 選手の疲労やフレッシュネスの影響

    状態によって数値は変化します。

  • 戦術的要因

     例:Nikola Jokicへの守備など、通常とは異なる戦術が適用されると、数値に影響することがあります。

  • データの妥当性・信頼性の留意点 

    %変化やZスコアなどの指標には、それぞれ注意点があります。

  • 解釈が重要 

    データそのものよりも、どのように解釈するかが意思決定の質を左右します。


Take-away :「より包括的な意思決定には、データだけでなく現場情報や文脈を組み合わせた総合的判断が重要」


ケジュール管理におけるデータ活用


移動タイミングの判断 

「今日移動するか、明日移動するか」といった意思決定に直結します。


チーム毎のスケジュール差異 

各チームの練習や試合日程の違いを考慮する必要があります。


選手の長期的な健康・パフォーマンス(Player longevity) 

過密スケジュールや移動による疲労が長期的なパフォーマンスに影響する可能性があります。


手評価におけるデータ活用

  • 経済的影響(Money loss)試合を欠場すると収入に影響するため、移動・参加判断には経済面も考慮します。

  • 意思決定の総合評価移動日、チームスケジュール、選手のコンディション、経済的影響を総合して判断することが重要です。


Q&Aまとめ


■ 変動する要素への対応・選手獲得について

  • 同じ年齢・ポジションの選手でも、どのタイミングでパフォーマンスが落ちるかを確認する。

  • 選手がどのチームやリーグでプレーしていたかも考慮する。

  • パフォーマンスのギャップ要因は、

    • 戦術・コーチング

    • 技術・データ分析

    • 身体能力・データ分析

の観点で整理する。


■ 意思決定における「成功」とは

  • 情報を意味のある形で解釈し、一貫性のある全体的な意思決定を行うこと。

  • システムやプロセスを定期的に評価する。

  • 周囲の関係者に「今どうですか?」と確認し、会話を継続する

  • 定量的データと定性的情報(印象や会話)の両方を活用する。

  • ステークホルダーにとって明白で納得できる意思決定を行う。


■ 選手の調子・コンディションの判断

  • 例:選手がリバウンド後にランニングではなくジョギングで戻る様子を見て頂いた主観的な印象が、データで裏付けられるか確認する。


■ 失敗例から学ぶ

  • 例:レンジャーズでS&Cコーチが心拍データを収集 → TRIMPを算出 → コーチはデータを軽視 → 選手の値が低いと「怠けている」と判断

  • 深い文脈を見ずに判断すると誤解が生まれる

  • 重要なのは、失敗を恐れず、失敗を修正すること


■ データ活用におけるポイント

  • NBAなどでは、データ重視かどうかはチームやフロント次第

  • 自分の仕事はチームと効果的にコミュニケーションを取ること

  • プレゼンはできるだけシンプルにし、会話を続けながらデータを活かす


■ スポーツサイエンスのトレンド

  • コンピューター作業に偏り、会話が減る傾向

  • 会話を重視:S&Cコーチやコーチの反応を直接確認する

  • データはあくまで補助。人との会話・現場判断が重要


■ データを扱う上で必要なスキル

  • コーディングや技術に偏りすぎない(AIが代替可能)

  • 統計学やデータの微妙なニュアンスを理解する

  • 優しさ・協調性:周囲と良好な関係を築くことが重要


ポヲタが提供するテクノロジー

弊社は、日本のスポーツ界に先進的なスポーツテクノロジーを導入し、選手の怪我予防やパフォーマンス向上を支援しています。本記事で紹介した事例のように、「KINEXON」をはじめとするテクノロジーを活用することで、データに基づいた意思決定と現場に即した運用を実現します。

導入をご検討中のチーム・団体の皆さまや、コラボレーションをご希望の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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