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試合の強度を練習で再現するには? ~高強度トレーニングの活用法~

  • Douglas Bewernick
  • 7月23日
  • 読了時間: 11分

 スポーツ現場におけるテクノロジーとデータの活用が進む中、特にバスケットボールでは、試合の要求を練習で再現するためのデータ活用型アプローチが注目を集めています。 本記事では、ベルモント大学スポーツパフォーマンスディレクターのリー・スコット氏と、ラトガース大学アシスタントアスレティクスディレクター兼ストレングス&コンディショニング担当のデイブ・バン・ダイク氏が、KINEXONシステムをどのように活用し、試合に近い強度と状況を練習で再現するための高強度トレーニングを実践しているのかを紹介します。

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クノロジー導入のきっかけとアプローチの変化


ベルモント大学のリー・スコット氏とラトガース大学のデイブ・バン・ダイク氏がテクノロジー導入に踏み出した背景には、それぞれの現場で直面していた課題と、「感覚や経験」に頼るだけでは不十分だという共通の問題意識がありました。


バン・ダイク氏は、選手のパフォーマンスや負荷を可視化する必要性を感じ、まず心拍数モニターを導入。その後、施設の新設に合わせてKINEXONのLPS(常設型)システムを本格的に採用しました。練習施設やアリーナではLPSを、そして遠征先では携帯型のIMUシステムを活用することで、場所を問わず一貫したデータ取得と負荷管理を実現しています。


一方スコット氏は、複数のチームを一人で担当することから、まずはトレーニング計画を効率化するためのオンラインツールを導入。次第にVBT(速度ベーストレーニング)や心拍数モニターなどのデバイスを段階的に活用し、ベルモント大学に着任後はKINEXONの提供する内部負荷(注:他社心拍センサー活用時)と外部負荷を統合的に可視化できる機能に大きな可能性を感じ、本格導入に至りました。

 

クノロジー導入後の変化


KINEXONを活用することで、両氏のトレーニング設計や選手管理の精度は飛躍的に向上しました。


スコット氏は、筋肉痛や疲労の原因を推測る必要がなくなり、個々の選手の状態に応じたトレーニングを設計可能になりました。さらに、取得したデータをもとにコーチングスタッフと建設的なコミュニケーションが可能となり、選手の評価や練習内容に対する認識のアップデートが生まれました。


ダイク氏も、従来の感覚的な判断から脱却し、より明確な数値に基づく意思決定が可能にました。選手の「どれだけ引き出せているか」をリアルタイムで把握できるようになったことで、パフォーマンスの最適化と怪我予防のバランスを両立する環境を整えています。

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視しているメトリクス(指標)


IMUシステムを使用しているスコット氏のゴールドスタンダード指標は、加減速の累計負荷(AAL: Accumulated Acceleration Load)です。練習と試合の強度を比較するための指標として活用しています。さらに、AALを「高強度ゾーン」や「非常に高強度ゾーン」などに細かく分類して分析することで、単純な総合値だけでなく、ゾーンごとの動きの強度分布を明確に把握しています。この細分化は、身体への負荷、走行距離、無酸素運動など他の指標にも適用可能です。


例:練習中のAALが700〜800と高い数値を示していても、それが単にコートにいた時間が長かったことによるもので、選手が高強度ゾーンにほとんど達していなければ、実際のトレーニング強度・密度はそれほど高くない可能性があります。また、距離や高強度運動の回数(エクサージョン)、ジャンプの数値も確認し、選手の内部負荷を評価するために傾向値も参考にしています。

 

一方で、LPSシステムを使用しているダイク氏は12のボリュームメトリクスと4つの強度メトリックスを使用しています。


  1. ボリュームメトリクス: 時間(Time)、平均距離(Average Distance)、高速距離(高・非常に高・極めて高強度帯)(High-Speed Distance)、高強度エクサージョン(High-Effort Exertions)、メカニカルロード(Mechanical Load)、蓄積された加減速負荷(AAL: Accumulated Acceleration Load)、減速負荷(Deceleration Load)、高速加速(High-Speed Accelerations)、高速減速(High-Speed Decelerations)、ジャンプ回数(Number of Jumps)、高強度バンドでのフルコートトランジション(High-Band Full-Court Transitions)など

  2. 強度メトリクス: 1分あたりの距離・エクサージョン・ALL(Per minute values of distance, exertions, ALL)、メカニカル強度 (Mechanical intensity)


例:バン・ダイク氏の設定している目標数値は練習の中で試合強度の80%以上を維持すること、ライブドリルでは90〜95%の強度に設定。注意点としては、練習では試合のように選手交代が頻繁にできないため、一部のドリルでは1分あたりの強度が低下することもあるとしています。

 

習と試合における高強度データの違いと活用実例


①     練習と試合で最も差が出る「高強度エクサージョン」

ラトガース大学のバン・ダイク氏によると、練習と試合で最も大きな差が出るのは「高強度エクサージョン(High-Effort Exertions)」だといいます。

特に、「1分あたりの高強度エクサージョン数」は、練習の強度を評価するうえで最も敏感かつ信頼性の高い指標だと述べています。


ベルモント大学のスコット氏も、AAL(蓄積加減速負荷)を高強度・超高強度ゾーンに分類し、練習が試合強度の85〜90%以上に達することを目指して管理しています。

スコット氏は、「見た目の激しさ」ではなく、データで実際の負荷を捉えることの重要性を強調。たとえば以下のようなケースでは、見た目の印象と実際の負荷が一致しないことがあります。

 

高負荷に見えないのに実際は高負荷な練習の例:選手が50人いる状況で、3つのバスケットを使い、各バスケットで5人ずつが15〜20分間ノンストップでプレー。これは対人練習(ライブ)ではないものの、方向転換やカバーリングの連続によって非常に高い負荷がかかっています。見た目には激しくなくても、数値上は「高負荷」と表示されます。


高負荷に見えて実はそうでもない練習の例:ライブ練習では選手交代や休憩があるため、実際にプレーしている時間が短くなり、結果的に負荷は低めに出ることがあります。

 

② 練習の強度調整にデータが活きる実例ダイク氏(LPSシステム使用)は

1.     選手への個別フィードバックに活用(例:試合直後、選手に「あなたは平均試合強度の99%で2試合分プレーしました」といったメッセージを送信。これにより、休養・食事の重要性を自覚させることができます)。

2.     コーチとのリアルタイム対応(例:練習中に選手の疲労度を見ながら、ヘッドコーチに「練習を切り上げる提案」をすることもあります。特にシーズン初期に連日高負荷が続くような時期に限られる。)数週間後の疲労蓄積を未然に防ぐことができます。

3.     リアルタイムモニタリングによる練習量調整に活用(例:ライブでメカニカルロード(物理的負荷)をチェックし、練習ボリュームの過不足を即座に把握。)

週単位の目標に届いていない場合、「もっとプレーしよう」と促します。また単調な走りより、ボールを使ったドリルのほうが選手のモチベーションにも良いと指摘しています。

4.     怪我からの復帰支援(RTP)への活用(例:スプリント速度や移動距離をリアルタイムで確認し、復帰選手の状態把握や目標設定に活用。目標に到達度に応じて復帰プロセスを調整できます)。

IMUシステムを使用しているスコット氏は

1.   怪我からの復帰プロトコル(RTP)の最適化

AAL(蓄積加減速負荷)を活用し、「非接触で50%強度」といった抽象的な指示を具体的な数値として運用。段階的に強度を上げていくプロセスに役立っています。

→ アスレティックトレーナーもコーチに状況を説明しやすく、RTP全体の質を向上に繋がっています。

2.    練習設計と負荷調整の意思決定

シーズン終盤、チームに疲労が見られる中、こなしている量に対して十分な強度ではないことが明らかになり、コーチに説明。高強度のストレスを管理しながら与えることの重要性を伝えた。その結果、トレーニングとコート練習の組み合わせで試合への準備が整い、シーズン後半で好成績[AB1] [DB2] を残すことができました。

3.   ライブデータの活用(IMUシステム)

IMUはLPS同様にライブ追跡(注:IMUは一部指標のライブ表示が可能)も可能だが、人員が限られるため全練習での活用は難しい。

女子バスケットボールやバレーボールではジャンプ回数などに目標を設定し、数値が上限に近づいたら別メニューに切り替えるなど、データに基づいた練習設計を実施しました。

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ーチとのコミュニケーションと信頼構築の工夫


スコット氏がコーチとのコミュニケーションの際に意識している点は以下の通りです。

1.     コーチのスタイルを尊重する姿勢(あくまでサポート役に徹し、コーチの戦術判断を尊重すること)

2.     シンプルで視覚的に伝える(コーチからの要望もあり毎日・毎週のレポートは2~3枚のわかりやすいグラフだけに厳選・異常値や傾向がある場合は、口頭で簡潔に説明して補足すること。)

3. 継続的に信頼を得る(繰り返し一貫した情報提供を行い、「この人のデータは信頼できる」と思ってもらうこと)

4. 認識のずれをデータで埋める(例:選手が「ノンライブ練習の方がキツかった」と感じた一方、コーチが「大したことをやっていない」と思ったケースでは、実際の負荷データ(方向転換数や加減速)で違いを可視化することでコーチと選手の認識のずれをなくすこと)。

5. 教育と対話による理解促進(自分自身も学びながら、コーチがデータの意味を理解できるようサポートする)

次にダイク氏が意識している点は以下の通りである。

1.     コーチのスタイルに合わせた伝え方(例:「何分練習させればいい?」というシンプルな問いに対し、数字やグラフでなく時間で答えること)。

2.     練習設計に一体化して関わる(当日の試合相手や目的に合わせてドリル構成を調整。

チーム全体で連携して練習を組み立てること。)

3.     コーチの直感と経験を信頼(データはあくまで判断材料の一つ=ツールであり、決定そのものではないと考えること)。

4.     主張は控えめに、慎重に(例:「言われた通りにやったら負けた」という事態を防ぐため、曖昧さも戦略とすること。)

5.     本当に重要な場面では断言(チームの健康や結果に重大な影響を及ぼすと判断した場合には、「これは絶対やるべき/やめるべき」とはっきり主張すること。)

 

フォーマンス技術導入を検討している若手コーチへのアドバイス


ダイク氏は、パフォーマンステクノロジーの導入において「科学的かつ戦略的な姿勢」を貫いています。テクノロジーで“できること”を過大に見せないことであり、重要なのは、実際に現場で“何に役立つか”を冷静に見極めることであると指摘しています。そのためには、データ収集の一貫性(練習・試合のラベリング、選手交代の記録方法など)や、年間を通じた蓄積と観察が不可欠だとなります。そして最も大切なのは、データを「真実」ではなく「ツール」として扱う冷静さを保つことと指摘しています。

また、彼は現場での対話にも優れており、コーチが数字を見たがらない場合には「練習はあと10分で終わらせましょう」と時間で伝えるなど、データを翻訳する工夫をしています。

一方のスコット氏は、「テクノロジー活用において最も大切なのは人との信頼関係」であると述べています。


テクノロジーはコーチや選手を助けるツールであること重要と指摘しています。

ダイク氏が徹底しているのは、「味方である」と相手に感じてもらうためのシンプルな表現と、率直な態度(例:日々のレポートでは2〜3枚の簡潔なグラフに絞り、異常があるときだけ対話を行うようにしています)。さらに、自らのミスも素直に認めることで信頼を築くという姿勢も一貫しています。

また、自分の責任範囲を超えないという慎重さも特徴の1つです。医療や戦術の判断には踏み込まず、「これは一つの意見です」と前置きを入れて伝える配慮を欠かしません。

 

二人に共通しているのは、「信頼を得ることが最も重要である」という一点にあります。データやグラフがどれだけ洗練されていても、現場で信頼されなければ、真の意味でのパフォーマンス向上にはつながりません。

 

後のテクノロジーに期待すること


今後の最も重要な機会は複数のデータソースを統合する能力にあります。

具体的には、位置情報データや心拍数データに加え、フォースプレートによるジャンプ測定、VBT(Velocity-Based Training)データ、主観的アンケート結果、実際の試合でのパフォーマンス指標など、多様なデータを統合することの重要性を強調しており、これにより、各データ間の相互作用を理解し、より包括的で精度の高い意思決定が可能になると述べています。

 

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リー・スコット氏(ベルモント大学)とデイブ・バン・ダイク氏(ラトガース大学)による高強度トレーニングの取り組みは、テクノロジーとデータを駆使することで、試合と同等の負荷を練習で再現し、選手のパフォーマンスと健康管理の質を大きく引き上げていることを示しています。


KINEXONシステムを活用し、外部負荷と内部負荷を定量的に評価。ライブモニタリングによって練習中の強度を即座に調整し、怪我の予防や復帰プロトコルにも科学的根拠を持たせています。また、コーチとの信頼関係を重視しながら、データを「意思決定を導き出すもの」ではなく「判断材料」として冷静に扱う姿勢が印象的です。このような取り組みは、データの正確な解釈と現場との橋渡しができる人材の価値を浮き彫りにしており、今後ますます高度なデータ統合と運用力が求められる中で、現場主導のテクノロジー活用のモデルケースとして注目されるべき事例と言えるでしょう。

 

ポヲタが提供するテクノロジー


弊社は、日本のスポーツ界にもこの先進的な技術を導入し、選手の怪我予防、パフォーマンス向上をサポートします。「KINEXON」をはじめとするテクノロジーに関心がある方や、コラボレーションを希望される方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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