パフォーマンスデータによる最適化:データの徹底したメンテナンスと個別化の重要性
- Douglas Bewernick
- 2 日前
- 読了時間: 10分
本記事では、WNBAミネソタ・リンクスのパフォーマンスコーチであるアンドレア氏の経験をもとに、パフォーマンスデータの追跡方法やシステム活用の実例を紹介します。特に注目するのは、データの徹底した管理の重要性と、選手一人ひとりに合わせた個別化アプローチによるパフォーマンス向上の実践法です。

KINEXONとの出会い
アンドレア氏は、スポーツパフォーマンスコーチとしてのキャリアを積む中で、スタンフォード大学時代にKINEXON屋内位置情報システム(LPS)に初めて触れました。トラッキングデバイスを用いたデータ収集や分析の経験はこれまでありませんでしたが、同僚のタイラー氏の指導を受けながら、システムの基本操作やデータ管理の重要性を学びました。この経験を通じて、データの収集方法・ラベル付けの統一・データの保管方法といった基本的な管理が、後のパフォーマンス向上や意思決定に直結することを学びました。
データの徹底した管理
アンドレア氏は、増え続けるパフォーマンスデータを効率よく扱い、スタッフ同士でスムーズに共有するには、データ整理を毎回同じ方法で、無理なく続けられる形で行うことが大事だと強調しています。
具体的に取り組み
一貫性の確保
ホーム/アウェイにかかわらず、練習スケジュールが変更されても、常に同じ方法でデータを収集できる続けられる方法を確立すること
事前準備
コーチが予定しているドリルや練習メニューを事前に把握し、データの計測中にあらかじめラベル付けを行っておくことで、データ管理の効率化と作業時間の短縮が実現します。さらに、この取り組みは、練習中に予期せぬ事態(たとえば怪我など)が発生した際にも、迅速に対応できる備えとしても有効です。
ラベルの統一
データをエクスポートした後の管理や分析のしやすさを考慮し、ラベル名の表記(名称の統一、大文字・小文字の使い分けなど)について、あらかじめ決めたルールを継続的に守ることが重要です。
たとえば、最初に「Competitive Shooting」とラベルを付けた場合は、後でラベル付けを行う際にも「Shooting」などに変更せず、同じ名称を使用し続けます。
データを「伝える」アプローチ
豊富な経験を持つコーチの中には、選手の状態を見極めながら、自然と負荷を調整できるロードマネジメントを実践している場合があります。
実際、アンドレア氏自身もキャリアの中で、コーチの感覚による負荷調整が非常に的確だったと感じた経験があるといいます。
データがなくても、長年の経験や観察力によって選手のコンディションを正しく判断できることは少なくありません。だからこそ、データの専門家はコーチのスキルや経験を尊重し、データを押し付けるのではなく、補完・支援する形で活用していくことが大切です。
コーチとのコミュニケーション
コーチの価値観を理解
コーチが何を重視し、データから何を知りたいのかを把握することから会話を始める
共通言語から導入
コーチがすでに理解している指標、「走行距離」や「km」などから会話をスタート
段階的に専門的な指標へ展開する
基本指標に慣れた後
・AAL (上下・左右・前後など、全ての動き(3次元)を考慮した加速度負荷の指標)
・メカニカルロード(前後移動や方向転換など、平面上の動きに加速度・減速度の強度を加味して算出する指標)
といったより専門的なデータを少しずつ増やし、コーチの知識を段階的に深めます。
情報を少しずつ増やす
共有する情報を少しずつ増やしていくことで、コーチが「もっと知りたい」と思うきっかけを作る。
新しいコーチの下で働く場合は、まず一歩引いてコーチの考え方や意思決定のプロセスを注意深く観察することが重要です。さらに、コーチが知りたい情報(たとえば、遠征先とホームでのシュートアラウンドの違いや、勝敗と練習時間の相関など)を把握することで、データは単なる数値ではなく、コーチの哲学を補完するツールとして機能します。このようなアプローチは、コーチとデータ担当者との信頼関係を築く基盤にもなります。
選手とのコミュニケーション

一方、選手とのコミュニケーションにおいては、次のようなアプローチを取っています。
共通言語からスタート選手がすでに理解している指標から導入(例:走行距離・ジャンプ回数・ジャンプ高など)。
競争性の活用
・練習後にTVモニターを使い、その日の負荷を表示
・選手同士で「誰が最も多くジャンプしたか」などを競わせる
・競争を通じて、データや専門用語への理解も深まる
※選手がデータに関心を持つことで、コーチも自然とデータに注目する循環が生まれます。
収集と観察
新しいシステムを導入する際は、まずデータの収集と傾向の観察に集中し、ベースラインを作成することが重要。
ベースラインが整った後に、選手やコーチへの教育や議論の開始。
4. ルーティンの構築
センサーの装着方法やタイミングを明確化・統一
毎日決まった場所でセンサーを手渡し、練習後に回収
データ収集を自然に習慣化することで、継続しやすくなる
データを単なる数字ではなく、選手とコーチの理解と関与を通じて、パフォーマンス向上につながるツールとして活用することが重要になります。
スケジュールでの管理
シーズンに臨むにあたり、負荷管理と練習計画の両面で、選手が最も厳しい状況でも最高のパフォーマンスを発揮できるよう、想定される最も過酷なスケジュールに備えることの重要性です。
1. 準備すべき過酷な状況の例
ダブルオーバータイム:長時間の試合でも耐えられる体力を準備
長時間プレイ:主力選手が40分以上プレイする状況への対応
このような状況下でも、選手が万全の準備を整えられるよう計画を立てます。
2. 負荷管理での回避するべきこと
選手が怪我をしていないにもかかわらず、慢性的な負荷が原因で試合当日に欠場したり、本来のパフォーマンスを発揮できない状態で出場したりすることは避ける必要があります。こうした問題は、試合当日に突然起こるものではなく、2週間前や1ヶ月前など、早い段階から慢性的な負荷が適切に管理されていなかったことを示しています。
そのため、負荷管理は一時的な対策ではなく、日々の積み重ねとして継続的に行うことが重要です。
対策ポイント
事前の確認
過去の練習やスケジュールの中で、慢性的な疲労が蓄積していないかを早期に把握
日常の調整
練習、シュートアラウンド、オフの日など、試合の準備段階で試合当日以前から適切に負荷を調整
このように、負荷管理は試合直前の対応ではなく、日々の小さな調整の積み重ねによって、試合を休むしかない状況を回避することが重要です。
個別化されたパフォーマンス管理
アンドレア氏は、パフォーマンスの最適化と負荷管理は選手ごとに個別化すべきだと考えています。客観的データと選手自身の主観的な感覚を組み合わせることで、ポジションや一般的な基準を超えた、選手一人ひとりに特化したアプローチを実践しています。
1. ポジション別の枠組みを超えた個別化
ビッグやガードといったポジションだけで選手を分類するのではなく、個々のプレー特性を重視しています。
【理由】
選手ごとに動きの特性が異なり、同じポジションでも同一のトレーニングや負荷は適用できない
選手の能力や動きは非常に個別性が高く、ポジション全体に一律の要件を課すことはできない。
2. 個別化された指標の特定
KINEXONなどの客観的データと、選手自身の主観的な感覚を組み合わせて、選手一人ひとりに最適化された指標を作成します。
たとえば、チーム内に2人のビッグの選手がいる場合、メカニカルロードという指標を用いて、それぞれの疲労を感じる数値を特定します。
選手Aの場合:過去データを分析した結果、メカニカルロードの数値が1,000を超えた翌日に、選手自身が「完全に消耗している」と感じる傾向があった→この場合、1,000という数値が、選手Aにとって過負荷ラインを示す個別指標となります。
選手Bの場合:同じポジションでも、メカニカルロードが1,200を超えても問題がない。→選手Bにとっては、より高い負荷まで耐えられることを示す指標となります。
このようにデータは「ポジション全体」や「チーム全体」で判断するのではなく、個人の状態とパフォーマンスを最適化するために活用することが重要です。
3. 個別化の成果と長期的な活用
データの蓄積が進む中でも、整理と管理を徹底することで、選手一人ひとりに最適化された強化プランを立てることができます。こうした個別対応の積み重ねが、最終的にはチーム全体のパフォーマンス向上にもつながります。
振り返るデータとしては、
選手が特にフレッシュだった時期
選手が苦戦した場面
などが挙げられます。
これらを分析して過去のデータを元に個別化された練習プランを設計することで、翌シーズンのトレーニングや練習計画に反映させることが可能です。
一方で、プロスポーツではロスターの入れ替えが頻繁に行われるため、大学チームのように同じ選手を長期間追いかけることは難しくなります。そのため、日々データを丁寧に分析し、継続的に個別化を追求する姿勢が不可欠だとアンドレア氏は強調しています。
ポジティブな「負荷管理」への再定義

アンドレア氏は、データは選手に「できないこと」を示すためのものではなく、「もっとできる時」を見つけるためのツールだと強調しています。データ活用の目的は、選手のパフォーマンスを制限することではなく、最適化し、最大限に引き出すことにあります。
そのためには日々の練習で目的に応じた負荷の使い分けが重要です。
身体的に追い込む日
例:「全力で45分間取り組む」と明確に時間を区切ることで、その時間内で最大限の力を発揮できます。
頭を使う日(身体的負荷を抑える日)
戦術理解やチーム戦略の確認など、思考や判断を磨く練習に重点を置くことで、身体的には無理をせず、質の高いトレーニングが可能になります。
今後への期待と・KINEXONを使い始める人へのアドバイス
アンドレア氏は、パフォーマンスデータの導入を検討しているコーチや関係者に対し、「焦らず、少しずつ始めること」の重要性を強調しています。データ活用は一度に完璧を目指すのではなく、日々のルーティンの中に少しずつ取り入れることで自然と定着していくといいます。
具体的なポイント
持続可能なルーティン構築
センサーをどこで渡し、セッションを開始するかといった基本的なことからルーティンを構築することが、過酷なスケジュールなど困難な時期を乗り越える鍵になります。
哲学との整合性
コーチ自身の価値観や指導哲学とデータ活用の方向性が補完し合っているか確認することが重要です。
好奇心と成長
データはコーチングを支えるツールであり、常に好奇心を持ち、他の指導者やメンターから学び続ける姿勢が、成長に不可欠であるとアンドレア氏は語ります。
漸進的な変化
練習方法を一気に変えるのではなく、5分・10分といった小さな改良を積み重ねることが、長期的には大きな成果につながります。
リーグへの期待
アンドレア氏は、WNBAの試合中にもウェアラブルを着用できるようになることを強く望んでいます。 それは、選手の健康やパフォーマンスを最適化するためであり、契約や評価のためではありません。女子バスケットボールにおける負荷管理はまだ発展途上にあります。だからこそ、KINEXONのような技術がこの分野の進化を支え、選手たちがより良い環境で長く活躍できる未来を築くことに大きな期待を寄せています。
まとめ
データ活用とは、単なる数字の管理ではなく、選手とチームのパフォーマンスを最大化するための柔軟で創造的なツールです。 データは「できないこと」を指摘するためのものではなく、選手がもっとできることを見つけるための手段でもあります。
また、データは制約ではなく、選手の能力を最大限に引き出す信頼できるガイドとして機能します。 それをチーム文化やコーチの哲学と調和させることこそが、長期的なパフォーマンス向上の鍵となります。
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※本記事は、下記を翻訳・加筆修正を行い、提供しております。



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