ユーロリーグで戦い抜く：コスタス・ハツィフリストス氏が実践するパフォーマンスマネジメント

Douglas Bewernick
5 分前
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本記事では、フェネルバフチェのパフォーマンス責任者であり、ユーロリーグS&C協会ディレクターを務めるコスタス・ハツィフリストス氏の活用事例を紹介します。特に過密日程のユーロリーグにおけるスポーツデータと負荷管理の導入、課題、そしてその変革的な影響に焦点を当てています。

コスタス氏の役割とキャリア

コスタス氏は現在、トルコのフェネルバフチェ男子バスケットボールチームでパフォーマンス部門の責任者を務めています。トレーニング指導に加え、メディカルスタッフやリハビリスタッフ、コーチ陣の業務を統合的に調整し、チーム内の連携強化に取り組んでいます。

ユーロリーグの環境とデータ活用の必要性

ユーロリーグ最大の特徴は、非常に激しい競争と過密日程です。

高密度な試合: チームは国内リーグに加えてユーロリーグにも参戦するため、週に3〜4試合が行われ、ファイナルフォーに進むチームは年間80試合以上をこなします。
移動の負荷: 国から国への長距離移動があります。
休養不足: リーグ戦終了後も、トップ選手はナショナルチームの活動に参加することが多いため、ほとんど休養が取れない状況にあります。

このような環境下では、負荷管理が非常に難しく、選手が試合でベストパフォーマンスを出すためにも、データ収集・データ追跡が必要不可欠となります。

データ導入

コスタス氏は現在、KinexonのIMUシステムを活用しています。IMUは設定が簡単で持ち運びも容易なため、チーム内でデータを用いた意思決定の文化をつくるうえで「非常に良いスタートポイントになる」と評価しています。さらに、このデバイスはショーツに取り付けられるクリップやポケットに対応しているため、従来のベスト型デバイスと比べて選手の負担が大幅に少ない点も高く評価しています。

重要な指標とデータの応用

IMUシステムが提供するすべてのデータを収集する中で、負荷管理と練習強度を測る上で特に重要視するようになった指標があります。

主要な指標

高強度における加速度（Accelerations in the high and very high zones）
1分あたりの走行距離（Distance per minute）：練習強度の把握に重要
マックススピード（maximum speed）：個別の補強ワークアウトで、選手が自身の基準値に達しているかを確認するため
加速度の総負荷（Total acceleration load）

これらの指標をシーズンを通して長期的に計測し、傾向を観察することで、個々の選手やチームにとってその数値が何を意味するのか、洞察を得られるようになります。

データがもたらした行動と変化

データの導入は、コスタス氏とコーチ陣、そして選手との関係に大きな変化をもたらしました。

1. コーチングへの影響（客観性の確立）

データ導入以前：練習内容や負荷量、休養のタイミングに関する議論において、意見の対立が多くありました。

データ導入後：客観的な数値を提示できるようになり、データの裏付けによってコーチ陣を説得しやすくなりました。今ではコーチ側から、練習の負荷調整が必要な際にデータの数値を尋ねるようになりました。

2. 練習計画の最適化

データ収集を始めたことによって得られた最も大きな洞察の一つは、試合直前の練習の負荷が高すぎたことでした。

データ導入以前：試合の3日前、2日前、1日前も長く激しい練習をしていました

データ導入後：ゲームに近づくにつれて加速度や高強度活動の負荷が減るように、練習を「量」から「質」重視へと変更しました。その結果、疲労によるフリースロー成功率の低下やターンオーバーといった問題の対処に繋がりました。

3. 控え選手の負荷管理

ユーロリーグでは、試合に出場しない控え選手が多くいますが、データ分析によって、彼らが十分な負荷を確保できていないことが明確になりました。そこで、試合で得られない分の強度を補うために、ランニング、方向転換、ジャンプなどの個別ワークアウトをデータに基づいて設計するようにしました。

さらに、そのデータを選手自身と共有することで、こうした個別ワークアウトがコンディション維持のために必要であり、将来のパフォーマンス向上につながる重要な取り組みであるという共通認識をチーム内に築くことができました。

4. リハビリの精度向上

負傷から競技復帰（RTP）を進める際、IMUで取得したジャンプや高強度動作のデータは、特にふくらはぎのような下肢の回復に大きく役立ちました。

データがあることで、リハビリの進行度を「あとどれくらい強度を上げられるか」「次に目指すべき数値はどこか」といった具体的な指標として選手と共有できるようになり、段階的な負荷の調整をより正確に設計できるようになりました。

年齢とロードマネジメントが左右する選手管理

コスタス氏は、アメリカの大学バスケとユーロリーグの両方を経験しており、同じトラッキングデバイスを活用していても、選手管理のアプローチは 年齢によって大きく変わる と指摘しています。

ユーロリーグでは、20代後半〜30代の成熟した選手や、場合によっては35歳を超えるベテランも多く、彼らの身体的負荷や回復スピードに合わせて、練習量や強度、休息の設計をより慎重に行う必要があります。一方で大学では、18〜22歳の若い選手が中心で、身体的な適応力、練習の目的意識、休息の捉え方などが大きく異なるため、同じ手法をそのまま適用することはできません。

こうした年齢とキャリアステージの違いはありますが、どのカテゴリーにおいてもロードマネジメントは重要になります。これは単に休ませることではなく、練習、ウェイト、休息、ウェルネスといった要素を総合的に捉え、選手の状態に応じて調整するプロセスを指します。そして、この調整を正確に進めるためには、主観ではなくデータに基づいて選手の状態を把握できる環境が不可欠です。データはコーチングを置き換えるものではなく、判断を支え、チーム全体で共通の基準を共有するための重要なツールとなっています。

哲学と今後の展望

コスタス氏は、データはコーチの判断を支え、トレーニングや選手管理の妥当性を検証するための「非常に価値あるツール」であると強調しています。しかし、その価値を最大限発揮するためには、いくつかの重要な要素が欠かせません。

総合的なアプローチ： コート上の動きだけでなく、ウェイトルームでのトレーニング、休養状況、ウェルネスのデータなど、複数の情報を組み合わせて判断することで、より正しい負荷管理が可能になります。
文化の構築： データは単なる「答え」ではなく、スタッフ全員が理解し、共有し、活用していくことで初めて意味を持ちます。チーム内でデータの価値を認め、全員が参加する文化をつくることが欠かせません。

今後の課題

外部負荷が身体に与える生理的影響をより正確に測定する技術（接地反力や四肢へのストレスの可視化など）の発展が挙げられます
選手一人ひとりに合わせてデータ測定や解釈を最適化するための、より個別化されたアルゴリズムの開発も求められています。

まとめ

ユーロリーグのように試合数・移動距離・競技強度が非常に高い環境では、選手の負荷を感覚だけで管理することはますます難しくなっています。コスタス氏がIMUを用いて実施しているデータ収集と分析は、練習設計、コンディション管理、リハビリの精度向上、控え選手の負荷最適化など、チーム運営のさまざまな側面を大きく前進させています。

データはコーチングを置き換えるものではなく、判断を支え、チーム全体が同じ基準で状況を理解するための強力なツールです。これにより、選手の健康を守りながらパフォーマンス最大化と長期的な競争力の維持につながる、より効果的で一貫性のあるチーム運営が可能になります。