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『より賢く、より少なく』で勝つ   ―アリゾナ州立大学におけるKINEXON活用の最前線

  • Douglas Bewernick
  • 4 日前
  • 読了時間: 8分

 本記事では、アリゾナ州立大学女子バレーボールチームにおけるKINEXONの活用事例を紹介する。データを活用した練習設計や負荷管理、そして選手の出場可能率向上といった成果をもとに、スポーツ現場におけるテクノロジーの可能性を探る。

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ータへの関心と経歴


ジェイク・ギャリティ氏は、アリゾナ州立大学のスポーツパフォーマンスアシスタントコーチとして、女子バレーボールチームの2023年の歴史的シーズンを支えた立役者の一人である。チームは28勝7敗、NCAAトーナメントで2勝を挙げるなど、過去最高の成績を残した。ギャリティ氏はスプリングフィールド・カレッジでデータ分析とスポーツ科学を学び、スタンフォード大学でスポーツサイエンスの実務経験を積んだ後、アリゾナ州立大学で女子バレーボールをはじめとする複数競技のパフォーマンス支援に携わっている。

データの有効性・信頼性・再現性を重視した分析を通じて、選手の成長とチームの成功に貢献している。


ポーツデータ活用に至るまでの歩み


ジェイク氏がスポーツデータに本格的に携わり始めたのは約5年前。当初は「とにかくデータを集めること」から始まった。フォースプレートやVBT(速度ベーストレーニング)といった機器を導入し、70を超える多様なデータ指標を収集。RPEや練習時間といった基本的な主観・客観データも含め、まずは幅広く、そして確実にデータを蓄積していくことに注力した。次のステップでは、「意味のある洞察を得ること」にフォーカス。アリゾナ州立大学の健康ソリューション学部と連携し、学生の力も借りながら、膨大なデータの中から「本当に価値のある指標は何か」を見極めていった。どのデータが実際に選手のパフォーマンスやリスクと結びついているのか、有効性や信頼性を確認しながら、分析の焦点を少しずつ絞り込んでいった。そして現在は、得られた洞察をもとに「実際の行動につなげるフェーズ」へ。選手やチームのトレーニングに対し、シンプルな指標から応用を始め、そこから徐々に複雑な指標へと発展させながら、実効性の高い介入を行っている。

このように、ジェイク氏のアプローチは「収集 → 洞察 → 行動」という3つの段階を経て、単なるデータ活用ではなく、現場に根ざした成果につながる仕組みとして進化してきた。


KINEXON導入と3つのメトリックス


ジェイク氏は、コーチ陣からの要望を受けてKINEXONの選手トラッキングシステムを導入し、客観的かつ理解しやすいデータ提供によって「大きな変化」をもたらした。KINEXON導入の最初の1年間(または最初の6ヶ月間)は、主にデータの収集とシステムへの習熟に費やされました。この期間は「学習の年」と位置づけられ、多数のメトリクスの中から、そのスポーツ(バレーボール)にとって本当に重要なメトリクスを特定するための検討が行われた。

従来の練習に対する主観的なRPE(自覚的運動強度)や総練習時間といった基本的な情報に加え、KINEXONからの客観的なデータを得られるようになり、コーチは行ったドリルが選手にどのように影響したかを直接的に理解できるようになった。

現在、女子バレーボールチームにおいては、パフォーマンス評価のための重要指標として以下の3つを使用している。

1.     ジャンプ高さ

2.     累積加速負荷(Accumulated acceleration load: AAL)

3.      1分あたりの累積加速負荷(AAL/min)-強度の指標として活用

これらのメトリクスを基に、選手のパフォーマンス管理やトレーニング強度の調整が行われています。


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ッドコーチJ.J.ヴァン・ニール氏との連携とデータ活用の具体例


2022年春に就任した新ヘッドコーチのJ.J.ヴァン・ニール氏は、いわゆる「統計オタク」として知られ、トレーニングとデータ活用を非常に重視している。

就任後すぐのスプリングトレーニング期間中には、7人の選手がチームを離れ、わずか9人でのスタートとなりましたが、フォースプレートとKINEXONによる詳細なデータ報告は欠かさず行った。ニールコーチは毎晩レポートに目を通し、積極的にフィードバックを送り、初回のチームミーティングでは選手たちに対してKINEXONデータの重要性を説明し、全員でその価値を共有した。彼が特に重視している、「ジャンプ」、「方向転換(change in directions)」や「運動の負荷(exertions)」といった動作全体を網羅的に把握することの重要性を強調。ジャンプ数や累積加速負荷(AAL)、1分あたりのAAL(AAL per minute)など、複数の指標についても率直に議論しながら、チームとしてより包括的な視点からデータを活用できるよう継続的なコミュニケーションを図っている。



ータから得られた洞察とそれに基づく具体的な行動

【1】練習計画の最適化

①    初期課題の発見と意識の転換

KINEXON導入後、「練習時間は長いのに強度が足りない」という問題が明らかになった。これにより、「たくさん練習すればうまくなる」という旧来の考えから、「より賢く、効率的に練習する」という新たな方針へ転換。

その結果、練習時間を短縮しつつ、質の向上と疲労軽減の両立に成功。また練習のやり過ぎによる燃え尽き症候群を未然に防ぎ、選手の状態をフレッシュに保つことに貢献。


②    ドリルごとの負荷把握とベンチマーク設定

KINEXONを導入後、6か月〜1年をかけて各ドリルのデータを蓄積し、負荷を「見える化」。それを基に、練習日ごとの強度(高強度/低強度)を計画的に調整。さらに、各ポジションに対してベンチマーク(目標値)を設定し、日々のレポートと照らし合わせながら練習を構築している。


③ 試合強度への対応と一貫性の確保

データから、

・3セット勝利の試合は通常の練習よりも負荷が低い

・5セットマッチは非常に高い負荷となる

という事実が判明。

特にスイープ(3-0勝利)が続く期間は、週初めの練習を5セット相当の強度に設定し、シーズン後半に備えて負荷を補正。

また、「ハイ・ローモデル(High-Low Model)」を導入し、練習とウェイトトレーニングの負荷を連動させることで、選手にとって予測可能で計画的なリカバリーを実現しました。


【2】怪我予防への応用

①    アスリートアベイラビリティの向上

アスリートアベイラビリティ:選手が健康な状態で練習・試合に参加できる割合を指します。

KINEXONの導入とスポーツサイエンスの活用により、過去2シーズン(2022年秋~現在)で90% → 95%に向上という成果が出ている。

チームのコーチは、「最高のチームは健康であり、シーズン終盤に最高のパフォーマンスを発揮する」と語り、健康管理の重要性を強調。


② 過負荷の早期発見と即時対応

ある試合で、先発選手が「異常なジャンプ回数」を記録。

翌朝、体調不良を訴えた際、KINEXONのデータにより過負荷の兆候を即座に把握し、練習メニューを即時に調整。その結果、選手は週末の試合でパフォーマンスを維持し、怪我の予防に成功しました。


③ 怪我からの復帰管理(RTP)

怪我からの復帰(Return to Participation)プロセスにおいても、KINEXONは重要な役割を果たしています。

例:大腿骨疲労骨折からの復帰選手には、以下の指標に厳密な制限を設定:


ジャンプ回数

累積加速負荷(AAL)

1分あたりのAAL(AAL per minute)

段階的な負荷調整により、安全かつ確実に試合復帰を実現。

「負荷をかけすぎず、足りなさすぎず」というバランスの取れた調整が可能になった。


KINEXONのデータを活用することで、この効率的なアプローチを客観的に評価・実践できるようになった。


データは「判断を補強するツール」

KINEXONのデータは、「最終判断を下す決定打」ではなく、コーチの意思決定を支援する“インフルエンサー(情報提供者)”として活用。x

そして、データ活用を成功させる鍵は、コーチ陣やパフォーマンススタッフ間の緊密なコミュニケーションであることも強調している。

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後の展望とデータ活用の哲学


ジェイク氏は、KINEXONのライブジャンプカウント(現在はすでに導入済み[DB2] )や、より精度の高いIMU(慣性計測装置)データ推定機能など、今後の技術的な機能改善に大きな期待を寄せている。また、データ分析をコーチングスタッフ、トレーナー、栄養士といった全てのサポートスタッフに統合し、チーム全体で共有・活用することの重要性を強調している。

彼のデータ活用に対する哲学は、「スポーツデータは『影響を与えるもの(influencer)』であり、『決定を下すもの(driver)』ではない」という考えに集約される。つまり、データはコーチの意思決定を客観的に裏付け、情報提供や説得力のあるストーリーを作る役割を果たすが、最終的な判断はあくまでコーチ自身が行うという立場を明確にしている。

また、トレーニングの重点は春季のウェイトルームでの強化に置かれ、実際のバレーボール練習中のパフォーマンスデータ(KINEXON)はインシーズンに活用されるなど、シーズンや状況に応じてデータ活用の方法を柔軟に調整している。ギャリティ氏は、チームが常に改善を続け、細かな調整と高い順応性を維持することの重要性を強く訴えている。


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ジェイク氏は、アリゾナ州立大学女子バレーボールチームにおいて、KINEXONを活用した基づいたアプローチを導入・定着させ、パフォーマンスの最大化と怪我予防を両立する革新的な取り組みを実施してきた。データの「収集 → 洞察 → 行動」というプロセスを基盤に、ジャンプ数や累積加速負荷(AAL)などの指標を日々の練習設計や復帰支援に活用。さらに、コーチ陣と密に連携しながら、データをチーム全体で共有・運用できる体制を築き上げた。

こうした取り組みにより、練習の質が向上し、定量データを活かした「より賢く、より少ない」負荷管理が実現。チームの競技力と健康維持の両立に寄与している。

今後は、より精度の高いIMU技術の活用やサポートスタッフ間でのデータ統合を通じて、チーム全体の意思決定や育成環境の質をさらに高めていくことが期待される。ジェイク氏が掲げる「データは決定を下すのではなく、影響を与えるもの」という哲学のもと、スポーツ現場におけるデータ活用は、ますます実践的で価値あるものへと進化していくだろう。


ポヲタが提供するテクノロジー


弊社は、日本のスポーツ界にもこの先進的な技術を導入し、選手の怪我予防、パフォーマンス向上をサポートします。「KINEXON」をはじめとするテクノロジーに関心がある方や、コラボレーションを希望される方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


※本記事は、下記を翻訳・加筆修正を行い、提供しております。

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