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データ主導アプローチでパフォーマンス最適化と負荷管理を実現:エバンズビル大学男子バスケットボールチームの躍進

  • Douglas Bewernick
  • 6月23日
  • 読了時間: 9分

更新日:6月24日

本記事では、エバンズビル大学男子バスケットボールチームのスポーツパフォーマンスコーチであるジェレミー・ポルティヨ氏が、スポーツデータとアナリティクス、特にKINEXONシステムをどのように活用してチームの成功に貢献したかについて紹介します。


ータの活用が支えた躍進


ジェレミー・ポルティヨ氏は、フィラデルフィア・セブンティシクサーズやワシントン・ウィザーズで実績を持つアダム・ペットウェイ氏のもとで、バスケットボールにおけるデータ活用の重要性を学びました。その後、エバンズビル大学男子バスケットボールチームの大学院アシスタント(GA)に就任し、着任わずか2週間でKINEXONシステムの導入を提案・実現。この決断が転機となり、前年5勝27敗だったチームは、6年ぶりとなる二桁勝利と勝率5割超えを達成するなど、飛躍的な成績向上を遂げました。ポルティヨ氏は、「この成功にデータは不可欠だった」と語っている。


ータ収集と管理


成功を支えたデータ収集において、ポルティヨ氏は「信頼性」「妥当性」の二つの柱を重視しています。信頼性のためにポルティヨ氏は、練習中の無関係なデータを排除するため、センサー装着時に必ず「ベンチ機能」を使用し、セッション開始前のデータ(例:自主的なシューティング練習)を計測対象から除外しています。これにより練習開始から練習終了までのドリルを分離して計測し、ドリル間の隙間時間などの無駄なデータを省いたうえでデータを取得しています。また、日々の各ドリル(例:オフェンスドリル、ディフェンス分解)を正確にラベル付けし、後で確認する際に間違いがないようにExcelやKINEXONアプリ上で「試合日-1」「試合日+1」などとタグ付けしています。そんな正確なラベル付けによって妥当性が確保されています(例:練習レポートで特定の負荷を推定する際に正確性を保てる)。     


ポルティヨ氏のKINEXONのセッション設定は非常にシンプルで、①選手の登録、②グループ分け(主要選手や練習生)、③RTP(復帰にむけたプロトコル)、④選手の目標設定とフラグ付けという4つのステップで完了します。


AMS(アスリート管理システム)は導入されていませんが、KINEXONから抽出したデータをExcelで分析し、独自のダッシュボードと運用フローを構築しています。データの収集・管理・報告は主にポルティヨ氏が担当し、アスレティックトレーナーが補助的に関わっています。また、ヘッドコーチとはほぼ毎日ミーティングを行い、作成したレポートをヘッドコーチに共有する体制が整えられています。


している3つのメトリクス(指標)


ポルティヨ氏が選手データの推移を追っていくうえで重視しているは、以下3つのメトリクスです。これらのデータを軸に選手のコンディション、効率、トレーニングの必要性を判断します。

  1. ボリューム指標: 蓄積された加減速負荷(Accumulated Acceleration Load)例:前後・左右・上下における目視が難しい細かな動きを含む全ての動作を加味した負荷指標

  2. 強度指標: 単位時間あたりの加減速負荷(Accumulated Acceleration Load per minute)

  3. 密度(density):総負荷に対する高い運動強度の割合(Accumulated Acceleration Load vs Acceleration load in high/very high zones)これはKINEXONアプリから抽出し、Excelで計算しています。


これにより、単なる累計負荷だけでなく、その負荷が「いつ、試合日のどれくらい前に」蓄積されたのかを把握できるほか、試合で求められる強度・密度と比較する事で、練習でどれほど効率的に重要な局面で高強度を出せているかを評価することに役立っていると語っています。


ータ分析から得られた具体的な発見や実践例


ポルティヨ氏は選手の運動データを分析し、特に若手選手が練習中に無駄なステップや過剰なランニングといった非効率な動きをしていることを特定しました。経験豊富な選手(例えばレブロン・ジェイムズのような選手)ほど動きが洗練され、効率的にプレーできているのに対し、若手は無秩序に動き回る傾向があると指摘しています。なかでも特にFalse Step(スプリントなどの加速動作を開始する際に、意図的に後ろ向きに踏み出すステップ)は、動作の効率を下げるだけでなく怪我のリスクも高める重大な問題とされており、またBackpedal(後ろ向きに下がる動き)は不必要な負荷を身体に与える非効率的な動きであることがデータから明らかになりました。


その改善のため、「目的地まで全力で直線的に走る」「無駄なステップを省く」「最初の3歩に全力を注ぐ」といった動作の質に重点を置いた指導を行い、これがチーム内でも共通認識として根付いています。トランジションの3歩目までの加速や方向転換、スクリーン動作などもデータで管理され、KINEXONを使って加速度や負荷を数値化しながらトレーニングに活かしています。このようなデータに基づくアプローチは、選手たちの意識にも変化をもたらしており、練習中に選手同士が「First 3 steps!」と声を掛け合うなど、自発的に効率的な動きへの理解と実践が進んでいる様子が見られています。


さらに怪我からの復帰(RTP)にもデータを活用しています。ジャンプ回数やカット動作などの運動負荷を追跡し、選手の状態に応じた段階的な復帰プログラムを構築しています。使用するデータは、延長戦や異常に高い負荷がかかった試合といった外れ値の影響を排除するため、選手が怪我をする前の試合データの中央値(median)を基準としています。これにより、より一貫性のある安定した指標に基づいた段階的な復帰プログラムを構築することが可能になります。


復帰後の試合では、段階的に負荷を引き上げるアプローチを採用しており、たとえば最初の試合では怪我前の累計負荷中央値の50%、2試合目では75%、3試合目で85%と、選手の身体の反応や試合スケジュールに応じて慎重に調整されています。このプロセスを通じて、選手は安全にコンディションを取り戻しながら、再発のリスクを最小限に抑え、パフォーマンスを回復することができます。


また、復帰中の選手には「RTP」ラベルを付け、ジャンプ回数やカット動作などの運動負荷を継続的にモニタリングしています。KINEXONによるリアルタイムの負荷追跡により、試合中でもベンチ裏から即座にコーチへ情報を提供し、出場時間や交代の判断にもデータが反映される体制が整っています。さらに、週に1回行われるコーチ陣とのミーティングでは、選手の進捗状況、その週のボリュームや強度、次の試合における目標負荷率を共有しています。プレー時間だけでなく、運動負荷に基づいた復帰判断がなされており、チーム全体で再発防止とパフォーマンス最大化の両立を目指す運用が実現されています。

 


イクロドージング


ポルティヨ氏は、エバンズビル大学男子バスケットボールチームにおいて、マイクロドージングというトレーニング手法を導入しています。これは、限られた時間をより効果的に使うために、1回あたりのワークアウトを短く分割し、高強度な短時間練習と休憩を高頻度で繰り返すという考え方です。特にNCAAの練習時間制限(週20時間)を受けて、練習を4回に分けて実施しています。


スケジュールが比較的安定する時期(注:大学バスケでは学業もあるため、試合期に一貫性がない)は、KINEXONデータも活用しやすいため、より効果的に負荷管理ができるようになったと言います。


実践内容は以下のように日別で整理されています。

試合日(Match Day) 主力選手のみが対象。出場機会がない、もしくは短い選手においては試合後15~20分間、高負荷・高出力の筋トレを行います(例:プランク、重いローイング、RDLなど)。

試合前日(Match Day minus one) スピード系の動きにフォーカス。バンドを使ったジャンプやラテラル系のプライオメトリクスが中心です。

試合2日前(Match Day minus two 最も長くて高ボリュームのトレーニング(30~45分)。広範囲なプライオメトリクス、アイソメトリクス、若手への肥大トレーニングなどを含みます。


リカバリー系サーキット

血流を促進することを目的としたサーキットトレーニング。「ボディブラスト」など、反復を工夫したエクササイズをホテルなどでも行い、移動後の身体の硬さを解消します。

ポルティヨ氏は、「オフの日は完全に休む」「負荷の低い日は本当に低く、高い日はしっかり高く」という明確な哲学を持ち、データをもとにトレーニングを秒単位で調整しています。選手の当日の負荷状況によっては、練習後に初めてトレーニングメニューを決定することもあります。たとえば、練習中にすでに高い負荷を記録していれば、その後に高強度のウェイトは行わないなど、柔軟な判断を行っています。

さらに、選手の主観的な体調評価(1~5段階)とKINEXONで取得する客観的なデータを組み合わせて、個別に運動処方を調整しています。シーズン中はジムでのトレーニングよりも、競技自体の活動量と回復を重視しており、「過密且つ不規則なスケジュールの中でルールを柔軟に運用すること」が重要だと述べています。

 

試合期の柔軟性

シーズン中は移動や試合スケジュールが非常に不規則で予測不可能なため、事前に詳細なトレーニング計画を立てることは難しいと述べています。そのため、データに頼り、練習後の選手のコンディションに応じて即座にトレーニング内容を決定する柔軟なアプローチが不可欠であると考えています。

 

怪我予防と回復

この柔軟なトレーニング処方により、選手がオーバートレーニングになるのを防ぎ、回復を最大化し、次の練習や試合に向けて準備を整えることを最優先しています。ポルティヨ氏はKINEXONシステムやExcelでデータを管理・報告し、コーチ陣とのミーティングでこれらのデータを用いて選手の状態を共有し、協力して意思決定を行っています。

 

とめ


ジェレミー・ポルティージョ氏のデータ主導型アプローチは、エバンスビル大学バスケットボールチームのパフォーマンスを劇的に向上させただけでなく、選手の健康管理と回復の最適化にも重要な役割を果たしていることが明らかになりました。


彼はKINEXONを中心としたリアルタイムデータを活用し、練習やトレーニングを秒単位で調整しています。選手一人ひとりの状態に応じて、柔軟かつ科学的なトレーニング処方を日々実践しています。その結果、チームは数年ぶりに勝率5割超えを達成するなど、競技力全体の底上げに成功しました。


今後、スポーツ現場におけるデータ活用の重要性はさらに増し、限られたリソースを持つチームでも、革新と成果を生み出す鍵としてその価値が再認識されていくでしょう。


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※本記事は、下記を翻訳・加筆修正を行い、提供しております。



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