データで導いた膝の健康管理:テキサスA&M大学女子バスケットボールの実践的アプローチ
- Douglas Bewernick
- 1 日前
- 読了時間: 7分
本記事では、テキサスA&M大学女子バスケットボール部が直面した膝の腫れという課題に対し、「Accumulated Acceleration Load(以下、AAL /*注釈:加減速の変化から算出される選手の累積負荷)」を活用した個別負荷管理によって、シーズンを通して選手の健康と出場機会の維持を実現した取り組みについて紹介します。

女子バスケットボールにおける膝障害の現状
最新の研究によると、WNBAにおけるバスケットボール傷害のうち、約15%が膝に関する怪我であり、その中でも全十字靭帯(ACL)損傷は女性アスリートの膝傷害の約46%を占めると報告されています。膝の痛みや腫れは、女子バスケットボールの現場において、多くのコーチングスタッフが日常的に直面している重要な課題の一つです。しかし、どのようにすればこの問題を予防・軽減できるのかについて、明確な答えを持つチームは多くありません。
テキサスA&M大学が抱えていたコンディションの問題
実際、テキサスA&M大学女子バスケットボール部においても、新入生を迎えた最初の夏季トレーニング期間中、ハードな練習の後に選手の膝に腫れが生じるケースが確認されていました。しかも、その症状は毎回必ず現れるわけではなく、腫れる日もあれば問題のない日もあるなど、原因を特定することが難しい状況にありました。
そのためチームにとっての課題は明確でした。膝の腫れをどのように防ぐのか、あるいは最小限に抑えながらトレーニングを継続するにはどうすればよいのかという点です。
テキサスA&M大学の博士研究員であるスミス氏は観察を続ける中で、膝の腫れが主に高負荷の練習後に起きていることに気づきました。そこで、S&Cを担当するベリーヒル氏、アスレティックトレーナーのキシル氏らパフォーマンス&ウェルネス部門と連携し、具体的な対策の検討をし始めます。
目標は、痛みや怪我のリスクを抑えながら練習を継続できる、適切な負荷の目安を見つけることでした。
ただ、その道のりは決して平坦ではありませんでした。KINEXONを導入した当初、判断基準となるベンチマークは存在していなかったのです。さらに、女子バスケットボールにおける負荷管理の研究自体が少なく、参考文献も限られていました。
つまり、ほぼ手探りの状態で、現場で答えを見つけていくしかなかったわけです。
そこで、テキサスA&Mでは、適切な負荷の目安を見つけるため、活用されたのがAALでした。
AALを活用した負荷管理のアプローチ
すべての練習および試合において選手がKINEXON IMUを着用し、AALを計測しました。
AAL :上下・左右・前後など、全ての動き(3次元)を考慮した加速度負荷の指標
スミス氏は、KINEXONのダッシュボード内でAALを以下の4段階に分類し、各セッションのボリュームと強度を同時に評価しました:
低(Low)
中(Medium)
高(High)
非常に高い(Very High)
分類をしたことで、練習がどの程度の負荷・強度で行われていたのかを、感覚ではなく客観的な指標として把握できるようになりました。

さらに、4段階に分類したAALのうち、上位2つのゾーンである高(High)と非常に高い(Very High)を合算し、それを総負荷で割ることでセッション強度を算出しました。この手法によって、運動量の多さだけでなく、どれだけ激しい動きが含まれているかを定量的に捉えることが可能になりました。
こうした分析を重ねた結果、テキサスA&MではAAL 500という数値が、練習における一つの有効な目安であることが明らかになりました。重要なのは、この閾値がチーム全体に一律で適用されたものではなく、膝に問題を抱えていた新加入選手一人ひとりの状態に合わせて導き出された点です。
AAL 500を基準とすることで、十分なトレーニング量を確保しながら、膝の腫れが生じるリスクを最小限に抑えるという最適なバランスが実現しました。
スポーツサイエンスディレクターのスコット・バトリー氏は、数値を活用する意義について、選手をただ制限するのではなく、安全性を確保しながら、より多くの取り組みを可能にするための計画が立てられる点にあると述べています。
さらに注目すべきは、このデータ活用が選手主体の意思決定を可能にした点です。
選手自身が負荷をコントロールする仕組み

約1年にわたってデータを計測したことで、各セッションにおけるボリュームと強度を客観的に把握できるようになり、さらにドリルごとにどの程度の負荷(数値)が生じるのかを把握できるようになりました。
そこにKINEXONのリアルタイムデータを組み合わせることで、選手自身がAAL 500という数値を一つの基準とし、自身の身体状態を確認しながら、練習中にどのドリルに参加するかを戦略的に判断できるようになりました。
具体的には、
パフォーマンスに対するROIの高いドリルを優先して選択
セッション内でAAL 500を超えないよう、一部のドリルを調整・スキップ
といった判断が選手自身で判断できるようになりました。
つまり、選手自身が自分の身体の状態とデータを見ながらどの練習に参加するかを決められるようになり、効果的な負荷管理と傷害予防が実現されたのです。
1年以上にわたるAALデータの観察と対話を通じて、シーズンを通して膝の腫れや不快感は明らかに減少しました。
この成果をもたらした鍵は、データをどう捉え、どう活用したかにありました。
データの役割:客観的な指標
スミス氏は、成功の鍵は「AAL 500」という数値そのものではなく、データを用いて選手ごとに最適な判断を行えた点にあると語っています。AAL 500は万能な基準ではなく、個別化された負荷管理を行うための指標として機能したのです。
バトリー氏も、データは意思決定を支えるためのものであり、完璧な勝利の方程式が存在するわけではないと述べています。その一方で、データを活用することで、より良い判断が可能になり、成功の確率を高めることができると指摘しています。
つまりはトライ&エラーを繰り返すことが大事なのです。
今回の最も重要な成果は、以下の両立を実現できたことです:
練習中:膝の腫れを防ぎ、健康を維持
試合中:制限なくフルパフォーマンスを発揮
選手は試合で全力を尽くしながら、練習では戦略的に負荷を管理することで、シーズンを通して出場し続けることができました。
この成功を支えたもう一つの重要な要素が、チーム全体の協力体制でした。
成功の鍵:スタッフ全員の協力
スミス氏は、パフォーマンス&ウェルネススタッフとヘッドコーチのテイラー氏が密に連携できたことこそが、今回の成果につながったと強調しています。全員が同じ方向を向いていなければ、データを現場で効果的に活用することはできなかったとも述べています。また、意思決定を支えるためにデータ活用を受け入れ、現場での実践を後押ししてくれたスタッフに対して、強い感謝の意を示しています。
今回の取り組みでは、以下のようにそれぞれの役割が明確に機能していました。
スポーツサイエンススタッフ:データの収集と分析
ストレングス&コンディショニングコーチ:負荷に応じたトレーニング計画の調整
アスレティックトレーナー:医学的視点からの評価とサポート
ヘッドコーチ:練習計画への理解と柔軟な対応
選手本人:データを理解し、主体的に判断する姿勢
これらすべてが同じ方向を向き、前向きにデータと向き合った結果、選手の膝の腫れや不快感はシーズンを通して軽減され、安定したコンディションでの競技参加が可能となりました。
まとめ
テキサスA&M大学女子バスケットボール部は、AAL閾値のような個別化されたデータ駆動型戦略によって、怪我のリスクを管理しながら、選手の出場可能性とパフォーマンスを維持することに成功しました。
本事例が示す重要なポイント:
データは制限ではなく、可能性を広げるツール
個別化されたアプローチが選手の健康を守る
スタッフ全員の協力があってこそデータは活きる
選手自身がデータを理解し、主体的に判断できる環境づくり
女子バスケットボールにおける膝の問題は、多くのチームが抱える共通の課題です。しかし、ターゲットを絞ったスポーツサイエンスの力を活用することで、この課題に効果的に対処できることを、テキサスA&Mの事例は明確に示しています。
スポヲタが提供するテクノロジー
弊社は、日本のスポーツ界に先進的なスポーツテクノロジーを導入し、選手の怪我予防やパフォーマンス向上を支援しています。本記事で紹介した事例のように、「KINEXON」をはじめとするテクノロジーを活用することで、データに基づいた意思決定と現場に即した運用を実現します。
導入をご検討中のチーム・団体の皆さまや、コラボレーションをご希望の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※本記事は、テキサスA&M大学女子バスケットボール部の事例をもとに、翻訳・加筆・編集を行い、提供しております。



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