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データを文脈で捉える           ― ベンチマークに「従う」のではなく、「使いこなす」ための考え方 ―

  • Douglas Bewernick
  • 4 日前
  • 読了時間: 6分


 近年、トラッキングデータはトップレベルから育成年代に至るまで、スポーツ現場において不可欠な存在となっている。トレーニングや試合から得られるデータは、選手の状態把握や負荷管理、さらには現場での意思決定を支える重要な材料として活用されている。

一方で、その普及とともに、データから導かれるベンチマーク(基準値)が、いつの間にか「達成すべき目標」として独り歩きしてしまう危うさも指摘されるようになった。

 本記事では、データの本来の役割を整理したうえで、文脈を踏まえながら、現場がどのようにデータと向き合うべきかを考察する。


ぜ「ベンチマーク」が問題になるのか

 

 トラッキング技術の進化により、走行距離や高速走行距離、加減速回数といった外的負荷は、日常的に定量化できるようになった。多くのチームでは、平均値や過去データをもとにベンチマークを設定し、ダッシュボードを通じて日々のトレーニングや試合を評価している。

その結果、単に負荷の大小を把握するだけでなく、急激な変化や選手間の差異、日ごとのばらつきまで、現場で即座に可視化できる環境が整ってきた。

 しかしその反面、本来は文脈とともに解釈されるべき数値が、「ベンチマーク内であれば適切」「外れればリスク」「達成できれば良いトレーニング」といった単純な判断基準として扱われやすくなっているのも事実である。

実際に、パリ・サンジェルマン(PSG)での実務経験を持つスポーツサイエンスの第一人者マルタン・ブシェット氏と、イングランド・サッカー界で長年パフォーマンス管理に携わってきたトーマス・リトル氏による論文「Slaves to (GPS) norms」では、ベンチマークは最適なトレーニング量を示すものではないと一貫して指摘されている。


同論文では、ベンチマークへの過度な依存が招きかねない問題点として、主に以下の点が挙げられている。

  1. 多方向動作や小人数ゲームなど、競技特有の負荷は数値上では過小評価されやすい GPSは走行距離や速度といった直線的な移動を中心に評価するため、方向転換、減速、切り返し、対人動作など、実際には身体への負担が大きい動作は、数値上では過小評価されやすい。

  2. 限られた指標だけでは、神経的・力学的・代謝的といった複合的な負荷を正確に捉えきれない GPSで取得できるデータは、外的負荷の一側面に過ぎない。判断や反応に伴う神経的負荷、減速時に生じる筋・関節への力学的ストレス、高心拍状態が続く代謝的負荷など、実際のトレーニングで生じる複合的な負担を、単一の指標だけで正確に評価することは難しい。


  1. ベンチマークを守ること自体が目的化すると、数値を満たしやすいトレーニング内容に偏りやすくなる 数値を満たすこと自体が優先されると、競技に必要な刺激よりも、距離や速度を稼ぎやすい直線的な走行や形式的な補填トレーニングに偏りやすくなる。

その結果、短期的な安全性や管理のしやすさは確保できたとしても、長期的なパフォーマンス向上や競技力強化の機会を失ってしまう可能性があると、論文は警鐘を鳴らしている。


場のリアルと、テクノロジー提供企業の責任

 

こうした落とし穴があるからといって、データやベンチマークが現場にとって不要になるわけではない。

 実際、指導者やパフォーマンススタッフは日々、

  • どの指標に注目すべきか

  • 一般的なトレーニングや試合の負荷はどの程度なのか

  • リーグやポジションごとに参考となる水準は存在するのか

 といった、極めて実務的な問いに向き合っている。データを用いないという選択肢がもはや現実的ではない以上、こうした判断から逃れることはできない。

この点について、KINEXON Sportsでプロダクトマーケティングおよび戦略を担当するフィル・リーマン氏(Philipp Liman)は、次のように指摘している。「テクノロジー提供企業の役割は、最適なトレーニング内容を決めたり、パフォーマンスや傷害リスクを数値目標として提示することではない」

 本来そうした判断は、競技特性やトレーニング原則、そして現場での経験を踏まえながら、データを解釈する指導者や実務者が行うべきものである。

したがって、ベンチマークは結論を導くための「答え」ではなく、意思決定を助けるための参考情報の一つとして位置づける必要がある。テクノロジー提供企業に求められるのは、「これが正解だ」と示すことではなく、データが何を示し、全体のどの部分を表し、そして何が分からないのかを、文脈とともに明確に伝える姿勢である。


コシステムの一部としてのスポーツテクノロジー

 ハイパフォーマンススポーツにおけるテクノロジー環境は、単一の仕組みですべてを把握できるようには設計されていない。一つの指標や一つのシステムだけで、選手の健康状態やパフォーマンスの全体像を正確に捉えることは、現実的には困難である。

だからこそ重要なのは、この前提を正しく理解したうえで、テクノロジーで「できること」と「できないこと」を正直に伝える姿勢である。場合によっては、別のソリューションの方が適した問いも存在することを認めることが、長期的な信頼につながる。

KINEXONも、こうしたエコシステムの一部として、意思決定に必要な全体の一部分のデータを提供する役割を担っている。さらに、トレーニングや試合データを他社ソリューションと統合することで、より連続的で包括的なパフォーマンス把握を支えるプラットフォームを目指している。


とめ

 ここまで見てきたように、問題の本質はデータやベンチマークそのものにあるのではない。重要なのは、

  • データは「答え」ではない

  • ベンチマークは「目標」ではない

  • 判断を助けるための「参考材料」である

という立ち位置を明確にすることである。

日々の数値を眺めるだけでなく、「なぜこの数値になったのか」「どのようなトレーニング内容だったのか」「本来狙っていた適応につながっているのか」を問い続ける姿勢こそが、データ活用の本質だと言える。

ベンチマークを達成することが、必ずしも正解やパフォーマンス向上に直結するわけではない。数値をどう解釈し、どう管理し、どう現場に落とし込むか。データは目的ではなく、複雑な現場でより良い判断を下すための「コンパス」であるべきだろう。


ポヲタが提供するテクノロジー

 弊社は、日本のスポーツ界にもこの先進的な技術を導入し、選手の怪我予防、パフォーマンス向上をサポートします。「KINEXON」をはじめとするテクノロジーに関心がある方や、コラボレーションを希望される方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


※本記事は、下記を翻訳・加筆修正を行い、提供しております。


論文「Slaves to (GPS) norms」


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