• Ryunosuke OSaki

海外から学ぶスポーツ科学 Vol. 6 ~S&Cコーチを目指すスポーツサイエンス・インターン記~

本シリーズの第5回目では、2020年に出版された「Basketball Sports Medicine and Science」というバスケットボールに特化したスポーツ科学の書籍で、オーストラリアのスポーツ科学者Tim Gabbettが執筆したワークロードマネジメントの項から、SpikesとWorst Case Scenarioの2つの知見についてお話しさせていただいた。傷害予防の為にSpikes (ACWRが1.5もしくは2.0以上となる)を防ぐ、またパフォーマンス向上のためにWorst Case Scenarioをプログラムに組み入れるといった理論や方法論が広まると、日本スポーツ界の益々の発展に繋がると考えている。


これから2回に分けて、近年取り沙汰されているACWRの欠点/問題点について、マギル大学(カナダ)のWangが執筆した論文を基に説明させて頂きたい。

第6回目は、ACWRに潜在する先天的な欠点についてお話しさせていただきたい。(注:捉え方は千差万別であるが、完全にACWRを否定しうるものではないという事をご理解頂きたい)


1.Coupled ACWR は運動負荷の比率であって、変化を反映するものではない


通常、ACWRを計算する際は直近1週間の負荷(急性負荷:Acute Workload)を直近4週間の負荷(慢性負荷:Chronic Workload)で割るが、Coupled ACWRは、この直近4週間の負荷にAcute Workload である直近1週間の負荷が含まれている。そのため、急性負荷と慢性負荷との間に偽の相関関係が生まれ、”運動負荷の変化”に関してACWRは過小評価しうると述べられている。また、Coupled ACWRにおいて、ACWR導入時や計算初期に最大値が”4”で固定されるという事も、負荷の変化を十分に反映できていないという点で指摘がなされている。


2.Uncoupled ACWRでも解決はされない


Uncoupled ACWRは、上記と異なり、直近1週間の負荷(急性負荷:Acute Workload)をAcute Workloadを抜いた3週間分(2、3、4週目)の負荷(慢性負荷:Chronic Workload)で割るものであり、Coupled ACWRの問題点を解決できるものとされてきた。しかし、異なる時間帯(1、2、3、4週)の負荷を単純な比率にまとめることから、ACWRと傷害発生との間に見られた関係が比率そのものの影響か、Chronic Workloadによるものか、あるいは両方によるものなのか疑問が残るというACWR自体の問題点について述べられている。


3.ACWRは単純平均で計算されている


典型的なACWRは、急性負荷:Acute Workload・慢性負荷:Chronic Workload共に単純平均で計算されてるため、月単位、週単位の負荷の変動に変化があっても、以下のようにACWRは3選手共に同じ値になる。この3選手の傷害発生リスクに差が出ることは一目瞭然である。しかし、ACWRを単純平均で求めてしまうと、このような問題が生じてしまう。これを解決するために、第4回でお話しさせていただいた、Exponentially Weighted Moving Average(EWMA:指数加重移動平均)という計算方法があるが、負荷の寄与率に対する値への個別化や競技特性を考慮するべきとの意見がある。また、0日目(練習開始前日)の負荷の考え方次第でも統計的問題が起こりうるとされている。

(図1)3選手共に負荷の受け方に変動あれど、ACWRは同値である

4.テーパリング期間における欠点


アスリートは、大事な試合やレースの前には回復を図り、疲労の除去およびフィットネスレベルの向上を目的としたテーパリングを行なうのが一般的となってきている。しかし、それをACWRでマネジメントした際には、テーパリング期間中の負荷の減少によりChronic Workloadが減少し、本番でのACWRが高値を示す危険性が高くなる。そのため、試合やレース時の傷害発生リスク軽減に向けたマネジメントにおいてACWRを採用することへの問題提起がなされている。


5.最後に


今回は、近年取り沙汰されているACWRの議論がなされている点について、お話しさせていただいた。ACWRのマネジメントにより、傷害予防に成功しているチーム/選手もいるため、完全にACWRを否定しうるものではないという事をご理解頂きたい。この問題について次の記事を書きつつも、近日中にオーストラリアへ渡航するため、実際にどのようにワークロードマネジメントされてるのかも今後の記事にしていきたいと考えている。



本文:尾﨑竜之輔

1995年6月19日生。長崎県出身。大学卒業後、フィリピンへ語学留学。2021年2月よりThe University of Southern Queenslandへ入学(パンデミックの影響により日本でオンライン授業)。「傷害予防こそが、選手がパフォーマンスを最大限に発揮する一番の鍵だ」と信じている。スポヲタ株式会社で、インターンとして勉強させていただている。


参考文献

Wang, C., Vargas, J. T., Stokes, T., Steele, R., & Shrier, I. (2020). Analyzing activity and injury: lessons learned from the acute: chronic workload ratio. Sports Medicine, 50(7), 1243-1254.

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