• Ryunosuke OSaki

海外から学ぶスポーツ科学 Vol. 4~S&Cコーチを目指すスポーツサイエンス・インターン記~

本シリーズの第3回目では、Acute Chronic Workload Ratio(ACWR: 急性と慢性負荷の割合)において、どのようにマネジメントするかという観点から、Chronic Workloadの重要性と時間軸の設定のお話をさせていただいた。Chronic Workloadが高いと、一定期間トレーニングを積む事ができており、身体機能の向上や負荷に対する適応ができていると考えられ、傷害発生リスクは減少すると報告されている。アメリカンフットボールにおいては、Acute: 3日、 Chronic: 21日という時間軸の設定が傷害発生を予測する上で、最も妥当性が高かったことが分かった。この時間軸の設定に関しては、その競技の特異的な日程やチームのスケジュールに合わせて考える事が推奨されている。


第4回目は、ACWRの計算方法について、2つご紹介させていただきたい。


1.Rolling Average


Rolling Average(RA)は、算数で習うような一般的な「平均」である。Acute Workload において、日ベースでの計算だと7日間の負荷の合計値を「7」で割る(週ベースで見ると「週の合計値」のみで、割り算は行わない)。Chronic Workload において、日ベースでの計算だと28日間の負荷の合計値を「28」で割る(週ベースで考える場合は「4週分の合計値」を「4」で割る)。RAで計算される方法でACWRというメソッドが紹介された事もあり、この方法が一般的になっているように感じる。ACWRを紹介する上で代表的な以下のグラフ(第2回でもご紹介させていただいた)も、RAから導かれた値から導き出されている。

(式)

Acute Workload= 7日間の負荷の合計値÷7 or 1週間の合計値

Chronic Workload= 28日間の負荷の合計値÷28 or 4週間の合計値÷4


→ACWR= Acute Workload ÷ Chronic Workload

(図1)この代表的なACWRのグラフは、RAで求めたAcute WorkloadとChronic Workloadから計算されている

2.Exponentially Weighted Moving Average


ACWRにおいて、それぞれAcute WorkloadとChronic Workloadを求める際に、Exponentially Weighted Moving Average(EWMA: 指数加重移動平均)で求める方法がある。この方法で計算する利点としては、前の期間(3週前や4週前など)の値に対する重み付けを少なくし、直近に受けた負荷を重視して、選手にかかっている負荷を推測する事である。RAと比較すると、RAは前日の負荷や7日前の負荷、28日前の負荷も同じ割合として平均化されるが、EWMAの場合、直近にかかった負荷の寄与率を高くして計算される。すなわち、EWMAは時間の経過に伴うフィットネスや疲労の増減を考慮し計算される方法である。以下に、その計算式を示したい。

 

(計算式)それぞれAcute WorkloadとChronic Workloadを求める。NにはAcuteとChronicの時間軸を代入する(例:Acute=7、Chronic=28)。

オーストラリアのスポーツ科学者Nicholas B MurrayやTim Gabbettらは、オーストラリアンフットボールを対象にRAとEWMAで計算されるACWRの妥当性を検討する研究を行なった。その研究では、2シーズンにおける練習・試合で起きた傷害と、それぞれRAとEWMAを基に計算されたACWRの関係に着目した。また、GPSから検出される外的負荷(総走行距離や各スピードゾーンにおける走行距離など)を“負荷”と定義し、定量化した。この研究の結果、EWMAで計算されたACWRの方が傷害発生の予測に有効である事が示された。それぞれRAとEWMAでは、同じ時間軸で同じ外的負荷から計算されているが、EWMAの方が傷害発生リスクに関して感度の高い予測をする事ができると言われている。そのため、ACWRを用いた傷害予防を行なう際には、EWMAの方法で計算するのが望ましいと考えられている。下記のグラフを見ると、”Danger Zone”と呼ばれるACWR: 1.5以上に達した際、EWMAにおいて、2倍以上の傷害発生リスクを示している。RAで計算していたら見逃されていたであろう潜在的なリスクも予測可能になるのではないかと考えられる。

(図2)EWMAはRAと比較して、有意に傷害発生リスクの予測ができる

(図3)研究におけるインシーズン中の結果、ACWR (EWMA):1.5以上から傷害発生リスクは高くなる

3.最後に

EWMAを用いたACWRの研究は、ラグビーやサッカーでも行われており、傷害発生リスク予測に対する感度の高さ(センシティビティーの高さ)が示されている。しかし、RAを用いた研究もなされているため、どちらを用いるかは、S&Cコーチ等のプラクティショナーによりけりではないだろうか。EWMAの計算式は、一般的な平均とは違うため、Excelファイルでフォーマットを作成するのも時間を要する事が考えられる。そこで、もしEWMAのExcelファイルのフォーマットを希望される方は、スポヲタ株式会社までご連絡いただければ、ご参考までにシェアさせていただきたいと思う 。このACWRのメソッドを世界へ最初に紹介した人物の一人であるTim Gabbettからいただいた公式を参考に作成したEWMAを用いた計算ができるファイルであり、今後のACWRのマネジメントに役立つのではないかと思う。また、すでにEWMAを適用されてる方は、ご自身のものとの比較にも有益になるのではないかと思う。お名前、所属先をご明記の上、下記のメールアドレスまでご連絡いただきたい。

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contact@sportajapan.com


本文:尾﨑竜之輔

1995年6月19日生。長崎県出身。大学卒業後、フィリピンへ語学留学。2021年2月よりThe University of Southern Queenslandへ入学(パンデミックの影響により日本でオンライン授業)。「傷害予防こそが、選手がパフォーマンスを最大限に発揮する一番の鍵だ」と信じている。スポヲタ株式会社で、インターンとして勉強させていただている。


参考文献

Blanch, P., & Gabbett, T. J. (2016). Has the athlete trained enough to return to play safely? The acute: chronic workload ratio permits clinicians to quantify a player's risk of subsequent injury. British journal of sports medicine, 50(8), 471-475.


Murray, N. B., Gabbett, T. J., Townshend, A. D., & Blanch, P. (2017). Calculating acute: chronic workload ratios using exponentially weighted moving averages provides a more sensitive indicator of injury likelihood than rolling averages. British journal of sports medicine, 51(9), 749-754.


Williams, S., West, S., Cross, M. J., & Stokes, K. A. (2017). Better way to determine the acute: chronic workload ratio? British journal of sports medicine, 51(3), 209-210.


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