移動が選手のパフォーマンスに与える影響——NBA研究からBリーグへの示唆
- Douglas Bewernick
- 2 日前
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はじめに
プロバスケットボールにおいて、試合間の移動は選手のコンディションに大きな影響を与える要因の一つです。NBAを対象としたHuyghe et al.(2018)の論文では、航空移動が選手の健康とパフォーマンスに与える負の影響について、睡眠・栄養・リカバリー・スケジューリングの観点から包括的にまとめられています。本記事では、この論文の主要な知見を紹介しつつ、Bリーグ、特に2026-2027年シーズンからのプレミア移行に伴うアウェイ連戦という文脈での示唆と限界について考察します。
1. NBAにおける移動の実態

NBAは全米4つのタイムゾーンにまたがるリーグであり、選手はアメリカの他のどのプロスポーツよりも多くの時間を機内で過ごします。2017-18シーズンから1シーズン82試合制が継続されており、週平均約3.2試合という過密スケジュールの中で、2連戦の試合の削減に努めてきました。同シーズンには平均14.4回のBack-to-back(連戦)が記録され、これはNBA史上最少でした。NBAではシーズン中の練習はほとんど行われず、実施される場合も1時間未満が一般的です。試合が週2〜5回行われる過密スケジュールの中で、移動そのものが「追加的なストレッサー」として選手の身体に加わるという点が、本論文の中心的な問題意識です。
Bリーグプレミアに置き換えると、1シーズン60試合・週平均2〜3試合という日程は試合密度という点では共通しています。ただし大きく異なるのは移動手段と移動条件です。NBAでは27チームがデルタ航空のチャーター機を使用しており、一般的な旅客機より50%広い機内空間が確保されています。一方Bリーグでは、ほとんどのチームがチャーター機を持たず、民間の定期便やバスでの移動が中心となります。さらにBリーグは国内移動であるため複数タイムゾーンをまたぐことはなく、NBAで報告されるような概日リズムの大きな乱れは生じにくいと考えられます。しかし、移動に伴う身体的な負荷そのものはスケールの違いはあれど、同様のメカニズムで蓄積されます。
2. 航空移動が引き起こす「移動負荷」
論文では、航空移動が引き起こす疲労として「移動負荷(Travel Fatigue)」という概念が紹介されています。これは単なる肉体的な疲れではなく、方向感覚の喪失・消化器系の不調・倦怠感・不快感などを含む複合的な状態です。
主な原因として以下が挙げられています。

機内の低酸素環境(酸素飽和度が地上の97%から巡航高度では93%まで低下)
低気圧・乾燥した空気による脱水
狭い座席での長時間の静止による柔軟性・血流の低下
睡眠・食事などのルーティンの乱れ
機内騒音による睡眠障害
移動の手続きに伴う心理的ストレス
特に注目すべきは酸素飽和度の低下で、機内での93%という値は病院において酸素補給の判断基準とされるレベルであり、筋肉の回復を遅らせる可能性があると指摘されています。
Bリーグでは飛行時間が短いため低酸素状態への暴露は限定的ですが、脱水・長時間の静止・ルーティンの乱れといった要因は距離に関わらず生じます。とりわけバスによる長距離移動では、飛行機と同様に狭い座席で数時間にわたって静止を強いられるため、血流低下や筋肉のこわばりという影響は軽視できません。また民間便のスケジュールに縛られることで、試合翌朝の早便や深夜帰着が重なれば、睡眠時間の短縮・ウォームアップ時間の不足といった問題が生じます。一つひとつは小さな負荷であっても、シーズンを通じて積み重なることで稼働率の低下や怪我リスクの上昇につながり得ます。
3. 移動方向と試合パフォーマンスへの影響
NBAの研究では、移動の方向によって影響の大きさが異なることが示されています。西向き移動(東→西)は東向き移動と比較してパフォーマンスへの悪影響が大きく、1987〜1995年の8,495試合のデータでは、西海岸のチームが東海岸へ遠征した場合の方が、東海岸のチームが西海岸へ遠征した場合よりも平均4点多く得点していました。また2010〜2015年のデータでは、東向き移動チームの勝率が45.4%に対し、西向き移動チームは36.2%と有意な差がありました。この背景には、概日リズム(サーカディアンリズム)の問題があります。NBAの試合の多くは夕方〜夜に行われますが、パフォーマンスのピークは一般的に午後遅い時間帯にあります。西向き移動では時間を「巻き戻す」形になるため、選手の体内時計が試合時間とずれやすくなります。
Bリーグでは国内移動であるためタイムゾーンをまたぐことがなく、この知見を直接当てはめることには慎重であるべきです。ただし概日リズムに関係なく、民間便のスケジュールに縛られるBリーグでは移動時間を自由に調整できないため、十分な睡眠時間を確保できないケースが生じやすく、試合当日のパフォーマンスに影響し得ます。特にホーム会場が使用できない期間に長期アウェイ連戦が続くチームにとっては、このような間接的な影響が累積するリスクに注意が必要です。
4. リカバリーと休息の確保

論文では、試合後に最適なパフォーマンスへ回復するために必要な休息時間として72時間という基準が示されています。しかしNBAの過密スケジュールでは、72時間の回復時間を確保することは現実的に困難なケースが多く、チームはクライオセラピー・コールドウォーターイマージョン・マッサージなどのリカバリー手段を用いています。

また、試合前の休息日数と得点の関係も分析されており、1試合を挟んで2日以上の休息がある場合、ホームチームは1.1点・アウェイチームは1.6点それぞれ得点が増加したという結果が報告されています。さらに休息日が3日ある場合に総得点が最も高くなるという知見も示されています。
Bリーグプレミアでは、試合と試合の間の日数がより変動しやすくなります。72時間という基準はBリーグにおいても参考になる指標ですが、ここに「移動時間」が加わる点がNBAとの大きな違いです。移動時間そのものがリカバリー時間を圧迫するため、特に長距離アウェイ後に短い間隔で次の試合が組まれる週には、より積極的なリカバリー介入が求められます。
5. 実践的な対応策
論文では、移動による負荷の影響を軽減するための具体的な方策がいくつか紹介されています。
概日リズムの再同期として、新しいタイムゾーンでの日中の身体活動・食事・社交を意識すること、朝にブルーライトを浴び夜にレッドライトを使用することなどが推奨されています。タイムゾーンをまたがないBリーグではこの対策の優先度は低くなりますが、夜遅い帰着後の翌朝試合のような状況では、睡眠リズムの調整という観点で一部応用できます。
栄養面では、夜に高炭水化物・低タンパクの食事でセロトニン産生を促し睡眠を促進すること、朝に高タンパク・低炭水化物の食事でアドレナリン産生を高めて覚醒を促すことが示されています。これはBリーグのアウェイ遠征中においても、移動日・試合前日・試合当日の食事設計に直接応用できる知見です。
機内・車内での対応として、1時間ごとに立ち上がって歩くこと、座席でのストレッチを取り入れることが推奨されており、血流低下と柔軟性低下を防ぐ効果が期待されます。NBAではチャーター機の広い機内空間を活用できますが、Bリーグでは民間便やバスという制約の中でいかにこれを実践するかが課題となります。移動中の過ごし方をチームとして標準化することが、シーズン後半の蓄積疲労を抑える上で有効だと考えられます。
6. Bリーグへの適用における限界と今後の課題
本論文はNBAという特定のリーグを対象としており、その知見をBリーグに直接当てはめることには限界があります。タイムゾーン・移動距離・移動手段・練習環境のいずれも異なる以上、Bリーグ特有のデータに基づいた分析が今後必要になります。
具体的には、アウェイ連戦中の選手の負荷変化、移動時間と翌試合のパフォーマンス指標の関係、バス移動と航空移動の身体的影響の差異などが、重要な研究テーマになり得ます。移動に伴う負荷そのものは直接計測できませんが、KINEXONでワークアウトや試合での外的負荷を把握した上で、移動前後のジャンプテストやRPEなどのコンディション指標と組み合わせることで、移動を含む総合的な負荷が練習・試合パフォーマンスにどう影響しているかを間接的に捉える枠組みを、Bリーグの現場から積み上げていくことが求められます。
まとめ
Huyghe et al.(2018)は、NBAにおける航空移動の影響を多角的に整理した価値ある論文です。スケールや移動手段の違いはあれど、移動が追加的な身体的・心理的負荷であるという本質はBリーグにも共通します。チャーター機なし・民間便依存・バス移動という条件の中で、移動負荷をいかに可視化し管理するかは、Bリーグプレミア時代における選手の稼働率維持と怪我予防の観点から、今後ますます重要なテーマになっていくことが考えられます。
本記事は、Huyghe T, Scanlan AT, Dalbo VJ, Calleja-González J. "The Negative Influence of Air Travel on Health and Performance in the National Basketball Association: A Narrative Review." Sports. 2018; 6(3):89. の内容をもとに、Bリーグへの示唆を加えて構成したものです。



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