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海外から学ぶスポーツ科学 Vol. 9 ~S&Cコーチを目指すスポーツサイエンス・インターン記~

本シリーズでは前回から2回に分けて、オーストラリア留学を通し、運動負荷マネジメントの権威とされるTim Gabbett氏からの教育や大学院の各授業で得られたインサイトから、①傷害予防、②パフォーマンス向上、についてお話させて頂いている。また最後には、弊社が取り扱っているKINEXONを、如何に応用できるかについても述べている。


今回は、運動負荷マネジメントを通したパフォーマンス向上についてお話しさせていただきたい。前回までの本シリーズ(第5回)において、Worst Case Scenarioについて説明させていただいたが、今回は、その構築法含め、さらに深掘りしたお話をしていきたいと考えている。一つお伝えしておきたい事は、パフォーマンス向上と傷害予防は、全く別のものではないという事である。前回お話ししたAthlete Monitoring Cycle もパフォーマンス向上に際して重要になる事と、また今回お話しする内容も傷害予防と関連性があるため、誤解なきよう予め添えさせていただいた。


1. Game Demands


運動負荷マネジメントを実施する際、トラッキングデバイスを用いることによって、選手が走った距離や発揮したパフォーマンス(加速/減速や製品会社独自の指標など)が数値として現れる。以下に、3つのスポーツを対象にKINEXONセンサーから得られた一試合あたりの運動負荷(ゲームデマンド:Game Demands)をまとめたものを記載する。選手が試合で最大限のパフォーマンスを発揮するために、これらのゲームデマンドを理解し、これを基準に選手の負荷管理をすることが望まれる。もしも選手がこれらゲームデマンドに対する負荷耐性がなかったならば、試合中にフィットネスを維持できず、最大限のパフォーマンスを発揮できない可能性は極めて高い。また、ゲームデマンドを遥かに超えた練習量をこなしていると、オーバーワークに陥る危険性も高いだろう。結果的に、パフォーマンスを高められないといった事や傷害発生に繋がる危険性が高い。

加えて、前回お話ししたChronic Workloadの重要性に関連し、シーズンインに向けて、ゲームデマンドを一つの基準にChronic Workloadを高める事が運動負荷マネジメントのキーポイントになり得るだろう。このChronic Workloadの構築は、パフォーマンス向上と傷害予防を図る上で大切になるため、これらを踏まえても、ゲームデマンドへの理解は重要なファクターになるだろうと考えている。


(図1)3つのスポーツにおけるKINEXONを用いた一試合あたりの平均負荷(ゲームデマンド)


2. Worst Case Scenario


Worst Case Scenarioとは、「試合において最も身体的に高い負荷がかかる事=最悪なシナリオを想定して練習を行う」というものである。「平均のゲームデマンドを満たすためのトレーニングでは、最も厳しい(きつい)状況(スプリントやコンタクトなど高強度運動が連続する局面)に対する準備が不十分である可能性が高い」と考えられているため、このWorst Case Scenarioの導入・構築が推奨されている。

このWorst Case Scenarioの練習を構築するために、①ボールがフィールド内で動いている時間(Ball-in-Play)の最長時間、②Repeated High Intensity Effort(RHIE:高速域ランニングまたはコンタクトが21秒以内に行われ、それが3回以上続いたもの)、③ピークランニングデマンド(Peak Running Demands:デバイスの生データから算出するもので、試合の負荷を1分や2分といった短い時間フレームで平均化したものであり、下記の図2のように、試合全体の平均(ゲームデマンド)より遥かにインテンシブな量/強度となる)を基に考えることがセオリーである。Worst Case Scenarioプログラム時における「量」に重きを置く場合には“①”を優先的に考えたり、「質」を重視する場合には”②・③”にフォーカスすることが良いのではないかと考える。

これらのデータをトラッキングデバイスから取得したり、ビデオ分析によって明らかにし、ピリオダイゼーション内における高強度練習日に取り入れることによって、選手のフィットネスの向上、試合中の最も厳しい(きつい)状況に対する準備性を高めることができる。これが運動負荷マネジメントにおいてパフォーマンス向上を図る、一つの大きな醍醐味ではないかと考える。


(図2)ピークランニングデマンドの例として挙げられる非線形図


3.最後に -KINEXONでできること-


試合時のトラッキングにより、当該チームのゲームデマンドを特定することができる。また、図3のように、初期設定においてポジション別のグループを作成しておけば、ポジション別の試合データを表示できる。さらに、レポート機能を使うことによって、一定期間の試合データを抽出しグラフによるビジュアル化やその期間におけるデータ分析(平均や最高値など)も可能になっている。

最後に、今回運動負荷マネジメントにおけるゲームデマンドやピークランニングデマンドやWorst Case Scenarioについて概論的なお話しをさせていただいたが、KINEXONを用いたこのような運動負荷マネジメントに興味、関心がある方は、ぜひ弊社までお問合せいただきたい。


(図3)ポジション別にグループ分けすることによって、ポジション別の分析も可能


本文:尾﨑竜之輔

1995年6月19日生。長崎県出身。現在はオーストラリア在住。大学卒業後、フィリピンへ語学留学。2021年2月よりThe University of Southern Queenslandに在籍(初年度はパンデミックの影響により日本でオンライン授業)。「傷害予防こそが、選手がパフォーマンスを最大限に発揮する一番の鍵だ」と信じている。スポヲタ株式会社で、インターンとして勉強させていただている。


参考文献

Gabbett, T. J. (2020). Debunking the myths about training load, injury and performance: empirical evidence, hot topics and recommendations for practitioners. British journal of sports medicine, 54(1), 58-66.


Altundağ, E., Miale, G., Aka, H., Akarçeşme, C., Guidetti, G., & ÇOLAKOĞLU, F. F. (2021). Tracking External Training Loads in Volleyball in Terms of Player Positions. Turkish Studies-Social Sciences, 16(3), 921-932.


Manchado, C., Pueo, B., Chirosa-Rios, L. J., & Tortosa-Martínez, J. (2021). Time–Motion Analysis by Playing Positions of Male Handball Players during the European Championship 2020. International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(6), 2787.


Stone, J. D., Merrigan, J. J., Ramadan, J., Brown, R. S., Cheng, G. T., Hornsby, W. G., Smith, H., Galster, S., & Hagen, J. (2022). Simplifying external load data in NCAA Division-I men's basketball competitions: A principal component analysis. Frontiers in sports and active living, 24.



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